豊島逸夫の手帖

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中東で見た、脱原発、ホルムズ海峡封鎖、円安の悪夢

2012年12月11日

「狭い!脱原発で、ここを封鎖されたら日本はどうなるか。」
11月中東出張したときにホルムズ海峡を見て思わず口を突いて出た言葉だ。丁度、エジプトで大規模反政府デモが現地のTVアルジャジーラを通じて連日トップニュースで流れ始めた時期であった。
「世界の火薬庫といわれる中東に原油を依存。一触即発と言われるホルムズ海峡を日本向けタンカーの7割以上が通過する。」とよく言われる。」

そのホルムズ海峡を実際に見ると、幅33キロまで細まる狭い海域だが、水深が浅いので、船舶通航レーンは出船用と入船用の二つしかない。1レーンの幅は僅か3.2キロメートル。
海峡のイラン側のみならず、対岸もイランが隠然とした影響力を持つ。ドバイは、元来イラン側の港から移住してきた商人たちが建設した都市国家だ。今でも、経済界上層部にイラン系の人たちは多い。
その海峡に米国は第五艦隊を投入して船舶レーンを守ってきた。
しかし、オバマ大統領は、「中東からアジアへ」外交的優先順位をシフトしつつある。再選後、最初の外遊は中国の脅威を意識した東南アジア諸国歴訪であった。

まさに、その時期に、中東に居たのだが、現地英字新聞のトップ記事はオバマ大統領の大きな写真。大見出しが「swanning around Asia アジアを練り歩く」。聡明であるべき米国大統領が、今、間違った地域にいる、という小見出し。「ガザ地域、エジプトが緊迫化しつつあり、本国では財政の崖問題が危機的状況にあるのに、アジアなどを歩き廻っている場合か?」との論調だ。米国がホルムズ海峡の軍備を、アジア地域の領土問題で緊張が高まる東、南シナ海方面に投入する可能性を危惧している。
背景には、「米国は親米国であったムバラク時代のエジプトを見捨てた」との「恨みの記憶」が見え隠れする。筆者が驚いたのは「エジプトを捨て、イランと組むのでは」という極論が根強いことだ。とにかく「アメリカは信用できない」という不信感が満ち満ちている。なにせ、イスラム金融の世界では「嫌米債」なる商品まで販売されるほどだ。米系金融機関が組成・販売には一切関わらず、米ドル以外の通貨建て、そして、イスラムが金利を禁じるのでゼロクーポン債の立てつけになっている。中東地域の「ドル不安」は政治的かつ宗教的要因に根差すのでぬぐい難い。

この問題を米国サイドから見れば、米国内エネルギー自給体制を着々と構築し、中東依存から脱却に向け進行中。そもそも、ホルムズ海峡経由の原油は、日本、韓国、中国のアジア向けが中心だ。そこに「中国」が入ることが気に入らない。「なんで、中国の原油調達ルートを米国が守ってやらねばならぬのか」との国内議論も多い。
しかし、中東の原油を使って、「アジアの工場」で安価なモノが製造され、米国へ輸出される「経済の生態系」の破断を米国経済が許容できないことも事実。

このように微妙な利害関係の上でのバランス・オブ・パワーに揺れるホルムズ海峡に脱原発モードの日本が原油輸入を依存している現実。しかも、円安が更に輸入価格を押し上げる可能性。
米国が中東より日中領土問題を優先してくれる外交的姿勢は有難いが、そのコストも覚悟せねばならぬ。

時あたかも、敦賀原発の廃炉が不可避となりそうな雲行き。
再生可能エネルギー開発に希望を持ちたいが、商業ベースに乗るまでの長い年月を、日本は常に中東発のテール・リスクに備えねばならぬ厳しい現実を思い知らされ帰国の途についた。

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828メートルの超高層ビルから見たドバイの金融街。背後の海がホルムズ海峡に接する。

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オバマ大統領の再選後最初の外遊先に中東ではなくアジアを選択したことを批判する現地紙記事


過激な脱原発論を唱える人たちに、一度見せたいホルムズ海峡。

それから、この中東リスクに個人投資家が備えるため、金保有は
役立つと痛感。ホルムズ海峡が封鎖されれば、金価格も原油高騰に連れ急騰するは必至。いつ起こるとも知れないリスクのヘッジには、金長期保有で備えたい。
なお、明日 日経CNBCでドバイ特番放映。
http://www.nikkei-cnbc.co.jp/program/special/1212_dubai.html (現在公開されていません)

或いは
www.nikkei-cnbc.co.jp
で選挙特番告知の後に出ます。

2012年