2015年1月13日
2015年、世界のマネーの流れに異変が生じている。
ヘッジファンドに加え、もうひとつのビッグマネー集団のオイルマネーの鳴動が始まったからだ。
両者とも窮している。
中東産油国は、原油安による歳入減少補てんのため、自国政府系ファンドの資産圧縮に動き始めた。中には、ヘッジファンド並みの荒っぽいトレーディングで運用収益最大化に走る国も見られる。昨年12月くらいから、その動きが目立ち始めた。原油価格40ドル割れ予測まで出始め、その動きは加速中だ。
いっぽう、ヘッジファンドは、年金基金や富裕層の解約が急増。マネー流出が加速中だ。
ときあたかも、ドッドフランク法(金融改革法)の影響で、大手投資銀行の自己勘定部門売買が規制され、トレーディング部門の縮小・閉鎖が相次ぎ、市場の潤滑油が急減している。
リスクテーカー不在の市場で、ヘッジファンドとオイルマネーは、高速度取引を駆使しつつ、短期的価格支配力は強まるばかりだ。
先週の米雇用統計発表後のドル円相場も、24時間チャートを見ると、およそ118円-120円のレンジで、短期的乱高下を繰り返している。新規雇用者数と失業率は改善しても、賃金は増えず、労働参加率も低迷。市場にとっては、総合評価が悩ましい。投機筋にとっては、市場を揺らせやすい地合いだ。
そこでヘッジファンドとオイルマネーが、水面下で先陣争いを演じている。
株式市場でも、ゴールドマンサックス幹部が「2月米株調整説」を語ると、高値警戒感が強まり、市場不安心理がこうじる。
ここでも、二つのビッグマネーが、うごめき始めている。
両者が「株安」の方向で一致すると、投機売りの共振現象が生じ、下げが増幅される。
逆に、相場観が異なると、高速度取引の空中戦と化し、フラッシュ・トレードと呼ばれる瞬間的急落・急騰が頻発する。市場のボラティリティー(価格変動性)も高まる。
この傾向は一過性ではない。
FOMCは原油急落が「一時的」との見解を示したが、民間では、シェール革命とOPEC価格調整役放棄、世界的景気低迷による需要減の複合構造要因との見方が大勢だ。
産油国も原油安長期化を覚悟のうえで、政府系ファンドの長期ポートフォリオ圧縮に動かざるを得ない。まずは欧米株売却。その次には日本株売りも視野に入る。購入不動産の流動化もいずれ顕在化しよう。
そして、アブダビ投資庁のように、トレーディング部門強化に走る国もあるわけだ。
民とはけた違いのポジションを持ち、リスクが制約されるどころか奨励されるので、「中東官製相場」ともいえるような状況も考えられる。
現場で働くのは、NYのトレーディング部門縮小により解雇されたトレーダーなどの外人助っ人部隊だ。オイルマネーといえど、実態はウオール街と変わらない。
いっぽう、ヘッジファンドも昨年は三つの大きな運用失敗を犯した。
1)量的緩和縮小の年は米国債利回り3%以上へ上昇と読み、米国債をショート(売り)した。
2)米国株史上最高値更新を読み切れず、上昇過程で、早めに利益確定に走った。更に、逆張りの売りで攻める失敗例も少なくなかった。
3)米国大手企業が法人税の低いアイルランドなどに登記上の籍を移すための現地企業買収などのM&Aブームにヘッジファンドも乗ったが、米国当局の規制により不発に終わった。(足元では医療関連セクターの大型M&Aブーム再燃の兆しに、再度色めきたっている。)
その結果、米国株式指数を大幅にアンダーパフォームする大手ファンドの例も明らかになった。その結果、米国第一位の州年金基金カルパースや、欧州第三位のオランダ年金基金がヘッジファンド外しを決めた。欧米でも横並び意識の強い年金業界ゆえ、今後拡散の可能性が強い。それを見た富裕層も、解約に動くわけだ。
存亡を賭けたヘッジファンドの切迫感と、オイルマネーを揺らす原油急落の切迫感。
日本株も円も、その影響を無視できない。
日経平均先物を舞台にした「空中戦」にも、最近、フランス系社名が目立つ。伝統的に、フランスと中東は経済的つながりが深い。筆者が働いたスイス銀行でもフランス語圏のジュネーブ支店は、中東顧客の大型売買注文を一手に引き受けていた。
テロ連鎖がフランスでおこったことは、決して偶然ではない。
市場では、この地政学的リスクが意識され始めているが、ここはオイルマネーとヘッジファンドの間に情報の非対称性がある。
今年の市場展望には、両者へ目配りする複眼の視点が欠かせない。
金は市場の不安心理を映し1230ドル台まで続騰。中国も上海市場の現物プレミアムが6ドルくらいまで上がってきた。
春節用の金地金の仕入れ時期である。