豊島逸夫の手帖

  1. TOP
  2. 豊島逸夫の手帖
  3. バックナンバー
  4. 渋谷路上でのトルコ人騒動に思う
Page1948

渋谷路上でのトルコ人騒動に思う

2015年10月26日

トルコは、今や、欧州難民問題、シリア問題で、地政学的な要衝に位置する。

隣国シリアからの難民の大半はトルコに流入。欧州を目指す中継基地の役割を果たす。

そして、米国のシリア空爆には、トルコ領内の空港が使用される。

そのトルコ自身も、領土を持たない流浪の民クルド人勢力が政治的に支持基盤を拡大。現政権にとっては、大きな脅威となり、更に、一部クルド人過激派のテロ活動が国内の治安を揺るがす。

トルコ内外ともに、極めて不安定な状況に置かれているのだ。

2015年は、ギリシャリスクが危機化したが、2016年は、トルコリスクが顕在化必至の様相である。

そもそも、トルコは軍事的にはNATO北大西洋条約に加盟して、欧州側の一か国として、シリアに直接対峙せねばならない。しかし、経済的には、EUの仲間入りをしたいのに、イスラム教国家をEUに入れることには、抵抗感が強く、思いを果たせずにいる。難民問題では、さすがに、欧州側も、気配りをしたのか、金銭的援助を申し出て、トルコの難民受け入れ体制強化をサポートしている。トルコとしては、ここぞとばかり、EU加盟合意を取り付けたい思いもにじむ。しかし、クルド人テロリストにまじって、イスラム国分子が侵入するリスクに対しては、欧州側も慎重にならざるを得ない。EUとトルコの間では、今や、水面下で、丁々発止の議論が戦わされているのだ。

米国も、トルコをなだめすかし、対シリアへの前線基地として、使ってゆかねばならない。

欧米にほんろうされつつ、国内にも、不安をかかえるトルコ。

しかも、米利上げに発する新興国経済危機にも巻き込まれ、国内経済は悪化の一途だ。

そんななかで、日本国内でも、クルド人問題が、このようなかたちで勃発したことで、他人事ではなくなってきた。

なお、難民問題は、トルコからバルカン半島経由の「西バルカンルート」に、約10万か所もの一時難民避難施設を主としてバルカン半島に設けることで、EU内関連諸国11か国が合意した。


次に、習近平国家主席訪英の真っ最中に、中国外務省は、メルケル独首相の今月29、30日中国訪問を発表した。

昨年7月の訪中では、フォルクスワーゲン社のトップも同行して、同社現地工場を初日に訪問している。ロイター電によれば、今回の訪中にもフォルクスワーゲン社新CEOが同行するとされる。そのために、同社第3四半期決算報告を1日早めたという。フランクフルト市場からは、釈明のための、緊急訪中かとの声も聞こえてくる。

中国側から見れば、29日は五全中会の最終日。たてこんでいる時期に、あえて、独首相を迎えるところに、今や、独中経済が一蓮托生であることを感じる。

欧州側では、チャイナマネー取りこみ合戦が加速している。

11月には、オランド仏大統領の訪中も予定されているのだ。

今回、習近平国家主席訪英の最大のお土産は、中国製原発。

その「国産原子炉」は、そもそもフランスから技術供与を得て開発された経緯がある。

受け入れ予定地の一つヒンクレーでは、1960年代に建設された原子炉老朽化にともない、新設原発をフランス電力公社と共同で進めてきたが、同公社のリストラなどで頓挫しかかっていた。その窮状を中国側は「国産原子炉」導入の機会と判断した動きとも読める。(なお、これについては、先週土曜日のABC朝日放送90分情報番組「教えてニュースライブ」で生出演解説した。You tubeにアップされている。沖縄の真相やTPP食の安全の話題も面白かったよ。)

https://www.youtube.com/watch?v=5ojm9aXD9L0


フランス側とすれば、ここは、更なる経済関係強化を確認しておきたいところだろう。

振り返れば、ギリシャ危機の際には、中国が欧州国債の買い方に廻り、「白馬の騎士」役を演じてみせた。欧州側も、敢えて、人権問題には目をつぶらざるを得なかった。更に、中国は、欧州債務危機の余波で経営が悪化した欧州企業の買収にも積極的に動いた。大手タイヤ・メーカーの伊ピレリ社が、中国資本を受け入れた事例が象徴的だった。いまや、イタリアは、欧州諸国の中でも、最大級のチャイナマネー受け入れ国となっている。

かくして、英、独、仏、伊など欧州における中国の存在感は高まるばかりだ。

なお、日本にとっても他人事ではない。

英国は、中国製原発を受け入れたことで、メイド・イン・チャイナの品質に一定のお墨付きを与えた感もある。

これは、メイド・イン・ジャパンにとっては、気になる展開だ。

インドネシアでの高速鉄道受注をうっちゃりで中国に持ってゆかれた理由のひとつに、日本側の油断も指摘される。

ドイツも、中国市場シェア確保のためには、必死の様相だ。

メルケル首相の「釈明」の仕方、中国側の反応も気になるところである。

なお、本日発売の東洋経済の特集「世界経済総点検、日本は売りか」

では、リード記事の冒頭(56ページ)で、筆者のコメント紹介。

週刊ポストでは、今話題の超大型郵政上場について、コメント。

そして、先週土曜の日経朝刊商品面では、中国の世界での「金爆買い」の記事あり。官民あげてゴールド備蓄に走る。その背景、戦略など、意味は深い。記事では書ききれなかった部分は、いずれ説明するよ。

2015年