2015年2月2日
30日の原油先物価格(WTI)は急反発。3月物は前日比3.71ドル高の48.24ドルで引けた。8%近い急上昇で、今回の原油安トレンドが始まって以来、初の本格的反騰となった。
キッカケはISISによるイラク国内クルド人地域の主要油田地帯に向けた奇襲攻撃。そして、米国のリグ(石油採掘設備)の稼働数急減が発表されたこと。この二つのサプライズ要因が共振現象を引き起こし、月末でもあり、先物市場で空売りの買戻し手仕舞いが殺到した。ショート・スクイーズ(先物売りの現物引き渡し期限にまでに現物が調達できないこと)を恐れた一部の投機家がパニック的に買いに走ったようだ。
まず、ISISが奇襲を試みた油田地帯はキルクーク。クルド人が支配するイラク北部では最大の原油産出量を持つ。イラクはイラク戦争後、原油生産設備が回復して産出量も日量300万バレルを超え、市場では新たな供給増要因となっていた。後発組ゆえ、マーケット・シェア確保のため、サウジアラビアより1バレルあたり1ドル以上ディスカウントしていたとされる。それゆえ、イラクの生産障害を連想させる出来事に市場は敏感に反応する。
次に、米国原油生産減少の兆しについて。
ベーカー・ヒューズという米大手資源調査会社が毎週発表する米国内の稼働リグ数が、1223と前週比94も急減した。ピーク時からは386と24%減ったことになる。更にカナダでもリグが11減少した。
最近になり、原油価格もやや落ち着きを取り戻しつつあったところに、このサプライズが起こったので、高コストのシェール生産者の減産予測が急速に現実味を帯びてきたわけだ。
ただし、30日の急反騰は、月末要因も働いており、これにより底打ちと見る向きはまだ少ない。ただ、さすがに40ドル台では、先物市場の原油空売りを牛耳ってきた投機家たちも神経質かつ慎重になることは確認されたといえよう。
なお、原油・金市場では、中東系ディーラーが独自の情報網を持ち、先制の売買を仕掛けることがある。例えば、イラク開戦時には半年前に察知して買い始め、開戦とともに利益確定の売りに走った。
市場の中東筋は、今回の油田地帯急襲を、有志連合空爆とクルド人精鋭部隊ペシュメルガの波状攻撃に危機感を強めたイスラム国の捨て身の反撃と読んでいた。財政も疲弊し、油田を狙ったとの見方もあった。追い詰められたイスラム国は何をやるか分からない、と日本人としては心配な成り行きと感じた。
そこで、30日のNY市場引け後に、複数の在NY中東筋と日本人人質の件につき、意見を求めた。「彼らは、機会あればイスラム国支配地域に侵入してきた外国人を人質に取るが、いきなり殺害などしない。情勢の変化で、なんらかの交渉ツールに使える時期まで放置する。
イギリス人ジャーナリストで、2年くらい人質として利用されている人もいる。
日本人人質は囚われて既に数か月。安倍首相の中東訪問で、急に、彼らのプロパガンダに使える人質になったのだろう。そうなると、人質は途端に生命の危機にさらされる。「死」は最大のプロパガンダ効果をもたらすからだ。
ベテラン中東筋の言葉ゆえ、重く響いた。
「イスラム国支配地域内のロシア人と中国人には滅多なことでは手を出さない」
「期限つきだそうだけど、金曜はイスラムの休日だから、土曜以降に持越しとなろう」
「ヨルダンは交戦国ゆえ、パイロット人質については、イスラム国側から見れば、様々な使い方がある。日本人人質と異なり、水面下での直接交渉がまず間違いなく続いていると思う。」などと冷静に淡々と語った。
そして、金価格も1280ドルまで戻した。
しかし、春節のかきいれどきを迎える中国の上海取引所では、現物価格プレミアムが2%程度で冴えない。ムンバイはディスカウント、即ち、現物買いより売りが多い状態だ。現物需要の支えがないということは先物主導。現価格水準で地合いは弱い。プラチナが1230ドルで、金プラチナ・スプレッドはまだ拡大中。欧州経済不安でディーゼル車に使われるプラチナの需要低迷観測に基づく。経済循環により欧州経済が回復すれば(やや長引きそうだが)いずれ、逆ザヤから順ザヤに戻るだろう。
NYMEXの原油ピット(立会場) 筆者撮影
なお、今日発売、週刊エコノミスト、リード記事「世界金融不安」に私のコメントがいろいろ出てます。
↓の、「続きを読む」で全文読めます。
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