豊島逸夫の手帖

  1. TOP
  2. 豊島逸夫の手帖
  3. バックナンバー
  4. VW問題が提示した「慰謝料」一人1000ドル
Page1958

VW問題が提示した「慰謝料」一人1000ドル

2015年11月10日

フォルクスワーゲンは、米国の顧客に、プリペードカードで1000ドルの金銭補償すると発表した。

リコール(無償の回収・修理)に加えて、直接的金銭補償という異例の対応だ。慰謝料でも払っておかないと、米国では集団訴訟でどれだけの金額の損害補償を求められるか、見当もつかないので、「示談」のごとき意味合いの措置のようだ。有害な窒素酸化物NOxを吸わせてしまって、もうしわけない。これでひとつ、なんとか、というわけか。

いっぽう、欧州では、窒素酸化物の許容排出上限を最大100%引き上げ、排ガス試験合格を簡単にすることで、事態を乗り切ろうとしている。しかも、実験室内ではなく、実走行での排ガス試験への移行は2017年。来年いっぱいは、現状でお構いなしという措置だ。現行モデルは、許容レベルの7倍に上るNOxを排出しているので、この汚染物質により「数千人の人を殺す決断と解釈することもできる。」とFTは書いた。その背景には、「EUの遺伝子ともいえる生産者のカルテル」志向があるという。公害により死ぬ危険にさらされる人たちのことより、企業の利益を優先させる傾向があるのだ。

更に、VW社の特殊な企業性も問題視されている。

株主構成を見ると、52.2%がポルシェ家とピエヒ家という「同族企業」だが、20%をサクソニー州が持つ「公営企業」でもある。更に17%はカタールの政府系ファンドで、オイルマネーも受け入れている。しかも、取締役の半数は労働組合出身者に割り当てられている。従って、今回のような企業の存続にかかわる一大事になっても、人員カットのリストラは出来ない。その結果、世界の自動車販売数で、900万~1000万台のレベルで、トヨタと一位の座を争ってきたのだが、VW社がトヨタの倍の従業員数をかかえる。(VW593,000人 vs トヨタ344,000人)。

今回のVWスキャンダルの背景には、同社の極めて特殊な企業体質があるのだ。

足元では、ディーゼル車からガソリン車まで疑惑が拡大して、ポルシェやアウディの高級車にも偽装があったようだ。

プラチナ・パラジウムの排ガス向け需要がどうなるのか、についても、予断を許さない。昨晩の下げは、その懸念を映す。

この問題は、まだ広がりそうなので、フォローが必要だ。

尚、10月3日に放映されたVW社についてのテレビでの筆者解説のyou tubeが、2万4千回ダウンロードされているが、参考までに以下の通り↓

https://www.youtube.com/watch?v=JIi7bernXLA

2015年