豊島逸夫の手帖

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スイスの教訓、中銀は嘘が許されるのか

2015年1月19日

「中央銀行は"嘘のライセンス"を持つのか」
あるヘッジファンドの呟きだ。
007ジェームズボンドの「殺しのライセンス」をもじった表現だ。
たしかに、昔は「中銀総裁は利上げ・利下げ見通しについて嘘をついても許される」といわれた。
しかし、近年は中銀と市場の「コミュニケーション」が重視されるようになった。中銀サイドもフォワード・ガイダンスにより金融政策の方向性を明示するようになった。
市場でも「中央銀行には逆らうな」が合言葉になった。
株価が急落すれば、バーナンキ前FRB議長が、追加的量的緩和で支えてくれるという安心感から、「バーナンキプット」という言葉も使われた。下値をヘッジするプットオプションになぞらえた表現だ。
しかし、スイス国立銀行(SNB)の突然のスイスフラン上限撤廃は、中央銀行への不信感を醸成する結果になりつつある。発表3日前に、SNB副総裁が「スイスフラン上限維持は、金融政策の大黒柱」とまで語っていたからだ。
市場は「不意打ちを食わされた」とぼやく。

この中銀不信感は、今後、日米欧金融当局に波及する可能性をひめる。
振り返れば、10.31黒田サプライズの3日前、参院財政金融委員会で、「質的・量的金融緩和は所期の効果を発揮、日本経済は物価2%への道筋を順調にたどっている」と語っている。
それゆえ、「黒田総裁の強気発言を信じてきた市場の予想を裏切った。」「不意打ちを食わされた」などの声があがった。
バーナンキ前FRB議長も、2013年の7月に、量的緩和縮小を示唆する発言をした後、9月のFOMCでは、テーパリングせず、市場は大混乱に陥った。その時の記者会見で、早速突っ込まれたが、「誰も9月に緩和縮小とは言っていない」と一蹴した。
たしかに、「金融政策変更の最後の決断は、マクロ経済データ次第。想定より振れれば、変わる可能性がある」と、FRBは必ず釘を刺している。
今週は22日のECB理事会で国債購入型量的緩和導入が「確実視」されているが、「誰もやるとはいっていない」状況だ。ドラギ欧州中央銀行総裁は「できることはなんでもやる」「(マイナス物価成長率を受け)追加的緩和を検討すべき時期」と語っているだけである。
米利上げも、「FOMCメンバーの多くが利上げは不可避との見方」「今後2回のFOMCで利上げはない」とFRBは表現しているが「誰もやるとはいっていない」。

スイスショックの直接の犠牲者はFX業界と世界のミセス・ワタナベたちであった。欧州ではレバレッジが最高1000倍も提示される売買システムの中で、流動性が極めて薄いユーロ・スイスフランに賭けたのだから、「自己責任で当然の報い」と同情論は薄い。損失規模もマクロ的には危機水準にはほど遠い。
(ちなみに国際決済銀行の調べでは、ユーロ・スイスフラン通貨ペアの世界の外為市場におけるシェアは1.3%である。)
しかし、スイスショックは「中央銀行と市場のコミュニケーション」について大きな不安材料を残した。
既に、円相場では、イエレン・クロダを信じて円安に賭けるべきか否か。ヘッジファンドも戸惑う状況になりつつある。

そのなかで金は1270ドルを超えた。円相場が117円台なので、円建てでも急騰中だ。
ここまでくると、私も、もはや「底値圏」とは言わない。
金がプラチナを若干上回る逆転現象も生じている。
明らかに金のほうに割高感がある。
金上昇の理由は、スイス・ギリシャなどの市場がかかえる不安要因に尽きる。安全性を求めるマネーが金流入のパターンだ。
また、いずれ、米利上げが現実味をおびたときには、金は下がると思う。ドル円だけ見るとドル安だけれど、外為全体では基調ドル高だし。ディスインフレ傾向は継続しているし。そこで下がったら、再び底値圏入りするから、そこでまた買い増せばいい。

さて、今日の写真はパレスホテルのアフタヌーン・ティー。
昼下がり、ゆっくりお茶できた。

2035a.jpgそれから、京都の「ほうじ茶ソフトクリーム」。八条口にあるのが一番旨い。買って新幹線に飛び込む(笑)。

2035b.jpg今晩は日経本社NIOで、社団法人日本経済研究センターのセミナー。日経朝刊の「教育」面に出てるよ。

明後日水曜日は、日経CNBCのニュースコアワイド30分拡大版、生出演。11月、12月についで3回目。30分あるとタップリ語れる。今回は、前回の株為替見通しが当たったか。外れたらカメラの前で反省会!前回はUstreamで閲覧が5000超えた。

2015年