豊島逸夫の手帖

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アベノミクスの限界

2015年10月30日

今日は、今や世界の市場関係者が注目する日銀金融政策決定会合と黒田総裁の記者会見。

果たして、追加緩和はあるのか。

直前の今日午前中に発表されたマクロ経済指標は、ひとことでいって、悪い。

9月実質消費支出、0.4%減。

基調判断は「横ばい」に後退。

同じ9月の全国消費者物価も、2か月連続マイナスの前年比0.1%下落。

唯一、有効求人倍率だけが、23年8か月ぶりの高水準で1.24倍。人手不足は明らか。

GDP実質成長率も2期連続マイナスとなる可能性濃厚。定義上、2期連続マイナスでリセッション(不況)入りとされる。

黒田日銀が、あれだけマネーをばら撒いても、結局、この結果では、すごろくでいえば、振出に戻っている。

ここで、追加緩和の切り札を出さねば、無策と批判されかねない。

かといって、追加緩和といっても、買うべき国債の出物も少なくなり、株ETFを買い増すといっても、露骨に中央銀行が株を大量に買うことは禁じ手だ。

マイナス金利という奇手は選択肢として残る。

そもそも、追加緩和も、続ければ、効果は逓減する。

そして、日銀の量的緩和に無理があったように思う。米国ではバーナンキが量的緩和を開始したときのドル短期金利は5%台だった。それをゼロ近くになるまで、国債を買いまくったわけだ。

対して、黒田総裁が鳴り物入りで米国流量的緩和に乗り出した時、円の金利は既にゼロだった。故に、利下げ政策で景気を刺激することは出来ようもなかった。そこで、黒田さんは、おカネをばら撒けば、消費者にインフレ期待(というかインフレ懸念)が高まり、おカネは貯めずに消費しようという行動に出るであろう、という消費者心理に訴える作戦に出た。

そこで致命的だったのは、その消費者心理を冷やす消費増税を容認したこと。(これは安倍首相の判断だけれど、財務省出身の黒田さんも賛意を示している。)

しかも、円安が進みすぎて、輸入品物価が上がると、消費者は益々慎重になる。円高不況が円安不況に転じた感もある。

物価上昇目標も2%などという数字を明示したものだから、この場に及び、説明に四苦八苦しているが、目標を達成できなかったことで失った信頼感は重い。今更、達成期限を来年、再来年に延ばしても、まともに信じる人は多くない。

黒田氏の日銀総裁としての任期は18年4月まで。

来年16年後半には、そろそろ次期総裁の話なども出てきそうだ。

黒田さんは、おカネをばら撒くのが仕事だったが、それを引き継ぐ人は、ばら撒きの後始末、つまり、マネー回収をいう貧乏くじを引く羽目になる。

米国では、バーナンキさんは、ばら撒き役で、イエレンさんが、回収役。だから、イエレンさんには同情する。

いずれにせよ、黒田さんの任期終了が視野に入ると、黒田流の量的緩和も終了かという観測も流れよう。

まさに、さらば、アベノミクスになりかねない。

それを察してか、安倍首相も、最近は金融政策への依存を語らず、もっぱら財政支援と、アベノミクス2.0のほうに話題を振り向けている。

このような市場環境の中で、今日がXデーといわれるわけだ。

常々、アベノミクスの成功を信じて日本株を買い、失敗に備えて金も買っておこう、と提唱してきたが、後者の重要性が増してきた。

まずは、今日の黒田発言に注目!

2015年