2015年12月7日
欧州中央銀行(ECB)は月額600億ユーロ(8兆円弱)の量的緩和を、少なくとも17年3月まで継続する。必要とあらば、更に延長も辞さずの構えだ。しかも、民間銀行は、ばら撒かれたマネーを貸出を通じて実体経済に流さず、ただECBの口座に「ブタ積み」しておくと、0.3%も手数料を課される。
これはバズーカと呼ばれるほど強力な金融政策だ。
それなのに、市場は、月額600億ユーロに加えての積み増しが無かったと失望する。ECBには「緩和不足」のレッテルが貼られる。ドラギECB総裁は、市場に過度の期待を抱かせる言動をしてきたと責められる。失望感から、ユーロ高となり、輸出依存の独企業株価は急落。
筆者にいわせれば、ドラギ・マジックのイメージに酔った市場の自作自演。むしろ、難民・テロ・VW不正・ギリシャ救済など難題を抱えたまな越年する欧州経済を考えれば、切り札温存の安心感も考慮されるべきだろう。
対ドルでユーロが1.06前後から1.09台まで急反発したことで「ユーロ高」だと騒ぐが、1.09という絶対水準はパリティーも絵空事とはいえないほどの「ユーロ安」だ。
3日のユーロ変動で、逆を突かれ、損切りを強いられたのは、所詮ヘッジファンドなどの投機筋だ。長期運用の年金や政府系ファンドの視点は既に2016年を見据えている。ECBが追加緩和の可能性を残したことで、株価にも先の楽しみが残った。
対称的に、イエレンFRB議長は、講演・議会証言を通じ、粛々と「節度ある利上げペース」を市場にすりこんでいる。今晩発表される米雇用統計でも、非農業部門新規雇用者数(NFP)が仮に10万人程度でも、労働市場は改善傾向にあるとのイエレン氏の見解は揺らぎそうにない。市場も、NFPに一喜一憂して利上げ開始時期について大騒ぎする段階は過ぎた。2016年の利上げ回数も、せいぜい2~3回と見れば、歴史的低金利圏という「緩和状態」は変わらない。平均時給などの賃金水準が重要だが、この項目は構造的要因に根差すので、月次での動きでは計りきれない。「経過観察」扱いで、まずは利上げ決断するしかあるまい。仮に、再検査でひっかかるようなケースが生じても、少なくとも金利水準の調整で対応できる余地がある。利上げした直後の利下げに追い込まれれば、中央銀行への信頼が損なわれるが、そこまで心配したら、なにも出来まい。実は、そこまで心配して、利上げ開始時期を今年6月、9月、そして12月と先送りしてきたのだ。優秀なエコノミスト・イエレン氏のプロとしての矜持が利上げを遅らせたともいえる。しかし、いよいよ今イエレン氏に求められるは、エコノミストの詳細な分析ではなく「経営者的な決断」であろう。
欧米市場では、FRBとECBの金融政策方向性が180度異なる状況が、ドル高急進行・国際商品相場続落・新興国経済不安を誘発するリスクが指摘される。
しかし、3日のドラギ氏記者会見、イエレン氏議会証言を見る限り、欧米金融政策の非対称性も、節度あるペースで進行しそうだ。
むしろ金融政策への「依存症」症状が顕著な市場の実態のほうにリスクがあるのではないか。
先進国も新興国も、喫緊の課題は、国民に痛みを課す経済構造改革であろう。ただ、構造改革の進展は緩やかなので、日々の市場における材料にはなりにくい。そこが、ヘッジファンドがつけいる隙でもある。株・為替・債券・商品すべてにわたって、投機筋のポジションばかりに目を奪われず、常に市場の底流への目配りが肝要だ。投資家には、複眼で市場を読むバランス感覚が求められている。
金プラチナ国際価格はドル安で急反発。1060ドル台と850ドル台。こちらも売られ過ぎの反動だね。
今日の写真は、庭にたわわになった南天の実。
そして、為替のプロ尾河眞樹との対談風景。「意見には個人差があります」カード。これ分かる人はNHK土曜深夜の「生さだ」見ている人。さだまさしが、NHKとして都合の悪いこと口走った時に、隣のディレクター氏がすかさず画面に出す。私にも実は必要なカードなので作成した(笑)。