豊島逸夫の手帖

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ギリシャ・上海リスク

2015年7月6日

ギリシャ国民投票。そして急落歯止め策が発表された上海株式市場。

日本時間月曜の朝。世界の目が、アジアで最初にオープンする東京市場に向けられている。

NYの株式・外為ディーラーたちも、現地日曜深夜、休日返上で臨戦態勢だ。

そして、ギリシャ国民の過半数は、債権団の緊縮案に明確なNOを投じた。

ギリシャ危機勃発から5年。GDPは30%近く縮小し、若年失業率は50%前後まで上昇。年金は3割以上カット。銀行休業のなか年金支給は継続されたが当面120ユーロにまで限定されている。

不満がうっ積した若者・年金生活者・失業者・中小企業は、国民投票で「NO」に走った。

とはいえ、もし、国民投票用紙に「ユーロにとどまることを望むか。」と書かれていれば、答えは「YES」が7割以上に達したと思われる。世論調査も、ユーロ離脱については反対意見が多かった。

結局、「消費増税・年金カットには絶対反対。しかし、ユーロ離脱にも反対。」が、ギリシャ国民の本音のようだ。だが、債権団からみれば、そんな虫のよい話は通らない。

とはいえ、勝ち誇ったチプラス首相は「民意」を錦の御旗に、債権団に妥協を迫る姿勢だ。

しかし、両者の間の不信の溝は、修復不可能なほど深い。

まずは、欧州中央銀行の出方が注目だ。ELA(緊急流動性支援)というギリシャ民間銀行の生命線を握っている。銀行休業の中で、ATMから引き出される一人60ユーロのユーロ紙幣は、殆どが、このELAに依る。

国民投票の結果を受け、ECBがどう動くか。

当面は、ELAを現状の規模で凍結しよう。銀行休業を続け、とりつけを回避しよう。

Xデーは7月20日。ECB保有のギリシャ国債35億ユーロが償還日を迎える。格付け機関は、公的機関保有の国債であれば債務不履行と見なさず、とするが、市場はデフォルトと扱うであろう。いずれにせよ、ECBは、保有ギリシャ国債が償還されないのに、ELAは継続できまい。

その時点で、ギリシャ国内へのユーロ供給の道は閉ざされる。実質的に、IOUなどの代替通貨を国内で発行して、価値交換手段を確保せねば、国民生活がたちゆかなくなる。反緊縮の「NO」勝利で高揚した市民感情も、急速に覚めて、厳しい現実と対峙することになろう。

ユーロの離脱に関する取り決めは想定されておらず、手続きも明文化されていない。しかし、実質的に、その時点で、ユーロ離脱という事態となろう。

欧州民間銀行の健全性が大幅に改善され、安全網が敷かれているとはいえ、市場のショックは不可避だ。

具体的には短期的には円高株安のシナリオが顕在化しよう。

ここで、大きな問題が上海市場だ。

中国株急落に対して、実質国営企業の証券会社による株下支え策が発表されたが、そこに、ギリシャ・サプライズが重なる成り行きとなった。規制によりこれは、当局も想定外の展開だ。習近平の支配力も、ギリシャ国民までは動かせない。人民元建て上海A株は、中国人個人投資家主導の国内市場とはいえ、ギリシャ発のリスクオフは、下げ圧力となるのだ。

今日は、株価下支え策を好感して急騰中だけれど、ボラティリティーがハンパではない。

なお、ギリシャ債務危機は、長期化が必至だ。

IMFも、今後3年、600億ユーロの追加支援が必要と説いている。既存債務の削減も避けられない。具体的には、二国間融資の期間を20年から40年に延長。更に、20年の金利猶予期間を設けることを勧告している。「出世払い」に近い扱いだ。

その過程で、キプロス型の預金封鎖、たとえば8千ユーロ以上は3割カットなどの案が検討されるかもしれない。預金保険は10万ユーロまで保証されているが、預金保険機構の資金は30億ユーロで、足りない。

米利上げの影響も含めて、ギリシャと上海のリスク共振現象は、中期的に世界の市場を揺らすことになりそうだ。

金は中国・インドの実需が安値圏でも盛り上がらないことが気になる。1150ドルくらいにならないと買い気がないみたい。

さて、テレビ出演のハシゴしてます。

4日のABC朝日放送に続き、今朝はテレ朝のモーニングバードでスタジオ出演。朝6時に局から迎えの車が来たから、昨晩は徹夜でギリシャ国民投票のフォロー。ずっとツィッターで中継してました。ツイッタ―のフォロワーも遂に1万人を超えた。そして、今、一息で、夜はBSジャパン、日経プラス10のスタジオ出演。日経の番組紹介にも出ているけど、小谷キャスターとギリシャ・トーク。台本なしのぶっつけ本番。

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ツイッタ― 
@jefftoshima

個人的には、ギリシャリスクより中国リスクのほうが、やばそう、と感じているけど、番組としては、ギリシャのほうが話題性があるんだね。

ABC朝日放送の番組では、大阪弁でギリシャを語る感じ。掛け合い漫才みたいになって、楽しめた♪ずっと、遊ばず、ストイックな生活しております。本意ではないけど。。。

最後に最新英文原稿。英語勉強中の読者が多いみたいで。

http://asia.nikkei.com/Viewpoints/Geopolitico/Athens-may-become-China-s-first-stop-in-Europe

2015年