「5月11日がギリシャ救済のヤマ場」
アテネ・フランクフルト訪問中に頻繁に聞かれる見通しだ。
日本の連休後に開催されるユーロ圏会合が、ギリシャ側からの改革案提出の実質的最終期限と見られ、内容次第では、債務不履行そしてユーロ離脱への出発点となりかねない。現地経済紙も一面トップで、FEDがGREXIT(ギリシャのユーロ離脱)を懸念と報じている。
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様々な市民と対話したが、失業中40歳男性が、うつ病になり、燦々とエーゲ海の陽光が注ぐカフェに気晴らしに来た、とのコメントが最も印象に残った。アテネ市民の市場では、債務危機前には人出で溢れかえっていたが、今は閑散。
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100年の老舗チーズ店店主も、「売上4割減でお手上げ。」と嘆く。場外では高齢者たちが、ギリシャコーヒーを飲みつつ、「月額1100ユーロあった年金が、800ユーロ更に400ユーロに削減されるようだ。」と語る。かと思えば、子連れでピクニック中のワーママ友達のリーダー格女性は、「左派連合系労働組合勤務で、チプラス首相支持。」とテレビカメラに向け熱く語る。
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市民の意見は、真っ二つに割れ、両サイドともに、話し始めるとせきを切ったように不満が噴出して、議論が止まらなくなる。共通しているのは、ギリシャの選挙の原点はオストラシズム(陶片追放)にあり、有力すぎて国家に有害と思われる人物の名前を陶片に書く市民投票で10年間国外追放にした伝統が色濃く残ると指摘したのは50代の男性教師だった。「メルケル首相がつきあった6人のギリシャ首相」の新聞写真が象徴的だ。
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家庭訪問した40代の女性公務員は、月給1800ユーロが1100ユーロにカットされたとこぼすが、まだマシなほう。月給800ユーロ前後が更に減らされる労働者も多く、緊縮疲れと極端なデフレを実感する。
なかには勝ち組もいるが、脱税がまかり通ってきた国柄ゆえ、既に資本海外逃避を終えている。国民一般に納税意識が希薄なので、チプラス首相も「適正な徴税制度確立」を改革案の柱に据えるが、ドイツ人から見れば「納税など当たり前の話だろう。」ということになる。
ここまで書くと、さぞ、国全体が荒廃状態と想像するかもしれないが、街角・家並みを見る限り、地中海性の温暖な気候の中で、これが財政破たん国家かと思うくらいに、のどかな感じである。しかし、前回訪問時に比し、明らかにシャッター街は増え、あった店がないことが多い。
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このままでは、国家がたちゆかなくなることは明らかだ。
若者たちは国外に就職の道を模索し、国全体が過疎化しつつある。
学生の第二外国語選択ではロシア語と中国語が増加傾向という。
アテネ郊外のピレウス港には青色の中国系港湾施設が目立つ。
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中国語表示は現地民の感情を刺激しないように控えられ、色により識別される。
メディアにはプーチン首相と会談中のチプラス首相の写真が載る。
対する救済側のメルケル首相には、ギリシャ問題よりウクライナ問題に優先順位を置くかのような言動が目立つ。ロシアと密接な経済関係があるフランクフルトから見ると、ギリシャが相対的に遠く感じるようだ。問えば「ギリシャも人道的見地から守るべし。ユーロも維持すべし。」と答える市民たちに、思ったほどの切迫感が感じられない。世論調査でも「GREXITやむなし。」は過半数を占めるようになった。「もういい加減、ギリシャとのかくれんぼごっこにケリをつけるべき。」とのコメントが印象に残った。
マーケットでは、これまでの反動のユーロ高・株安が進行中だ。
29日のFOMCでは、ドル高など海外要因が「一時的」とされたが、アテネで感じる実態は、「ユーロ高のほうが一時的」ということだ。
ギリシャは経済的に小国だが、西洋文明の源というプライドが国民的には高いので、妥協を潔しとしない。
更に、ユーロ離脱ともなれば、銀行の安全性や安全網は整備されてきたが、悪しき前例がユーロの団結に対する不信感を生むことは避けがたい。
日本人としては、エーゲ海発円高の可能性が気になる。国際金価格は1200ドル台を回復も依然頭が重い。やはり米利上げが気になる。今回のFOMCでは、利上げ時期について、各FOMC会合ごとに経済データを見つつ、毎回決めるという言い回し。要は、その場になってみないと分からない、ということゆえ、市場は益々当惑している。
長期的視点では、財政危機は静かに進行するが、臨界点に達すると一気に表面化するというギリシャの実例は、他人事ではない。
無症状の糖尿病が進行すると、ある日突然失明などの重篤な症状が顕在化することを肝に銘じ帰国の途についた。
なお、ツイッタ―@jefftoshimaに30枚以上の写真をその場で撮影直後に、はってます。
豊島逸夫で検索かけると、豊島逸夫twitter の項目が出てきますから、そこをクリックすれば見れます。