豊島逸夫の手帖

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米製造業ISM50割れの衝撃

2015年12月2日

米サプライマネジメント協会(ISM)が1日発表した11月の製造業景況感指数は、好不況の境目とされる50の大台を3年ぶりに割り込み、約6年半ぶりの低水準となった。生産、在庫、新規受注いずれも悪化。救いは雇用の指数上昇。

1931年以来続く伝統的な景気動向指数だが、過去、50を割る水準で利上げした例は稀だ。市場には、12月利上げ説には暗雲漂うがごときインパクトがあった。利上げが想定通り開始されても、利上げペースが来年は2回程度のスローペースに留まるとの見方も浮上しよう。

NY株式市場は、同統計発表後、一瞬ひるんだが、緩和相場継続と読み、上昇。「悪いニュースは良いニュース」との見方に再び戻った感がある。良いニュースの時は素直に受け止め、悪いニュースなら緩和相場と読み、どちらに転んでも株価は上げ。都合よい解釈と言われそうだが、12月相場を迎え、買い意欲が強い証し。とはいえ、上昇相場の死角としての認識も怠るべきではなかろう。

なお、米経済の非製造業依存構造が益々顕在化。国内製造業を中心にドル高への抵抗も強まりそうだ。円相場には潜在的円高材料。TPP米国批准には逆風。特に、SDR入りした人民元に対しては、自国産業保護のための通貨安競争を連想させる自国通貨安誘導には批判が強まろう。

なお、市場にとって一服の清涼剤の如きニュースもあった。フェイスブック・ザッカ―バーグ夫妻に第一子の女の子誕生。記念に、同氏保有のFB株99%をチャリティーに寄付と発表した。5兆円を超すと見られる保有株を、生涯に亘る長期で段階的に基金に移すようだ。なお、過半数の議決権は当面維持する模様。

金価格は底値圏でさすがに反騰。一時1050ドル台まで下がり、1060~70ドル前後で推移。ちまたには1000ドル割れ説も流れるが、そんなときは、円相場が127~130円くらいに円安進行して円建て金価格は変わらんだろね。私は1030ドルまでと見てるけど。

ところで、テロの影響もあり、日常生活でも、セキュリティーが厳しくなった感じがする。

これが、行き過ぎた例もある。

連載寄稿頼まれたところが、なんと、「非社会的人間ではない」との誓約書に捺印せよ、だと。なんとも自己保身に走るサラリーマン根性が透け、喧嘩ふっかけた。

かと思えば、講演依頼してきた資産運用アドバイザーたちの協会のある地方支部が、「講演許可申請」みたいな書式出せと言ってきた。更に、講演後の懇親会出席の場合は会費半額負担願います、だと。金額の問題ではない。元々タバコ煙アレルギーだから懇親会には出席しないけど、その発想がおかしい。更に、それを指摘したら、なんで、不愉快な思いさせたのか分からず、なにかお気に障ることでも、ときたもんだ。まぁ、大きな協会の一支部の話で、他の支部では、そんなことないけどね。親しい知り合いの協会会員たちもあきれ返ってた。

とまぁ、ぶっちゃけたところで、今日の写真w。

まず、仙台での親子で考える資産運用セミナー後、打ち上げで、牛タンの芯タン!絶品。日経CNBC佐久間あすかキャスターもご機嫌。老舗の3階にある洒落た個室。とても牛タン店とは思えない。さすが主催した地元の河北新報の選択。

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それから、京都「らく山」の続き。

もろこ。そして、フグのお造り。大将の一番弟子のシンちゃんこと慎矢クン。大将夫婦と家庭的で気取らない雰囲気がいい。京都料理でもイタリアンでも超高級店より、こういう和やかな店の方が好き。イタリアンでいえば、リストランテよりトラットリア。

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それから、昨日書いた原稿も。


歴史的な日を迎えた人民元

IMF理事会で、いよいよ人民元がSDR(特別引き出し権)構成通貨として採用が決められた。

これにより、人民元が「国際通貨」としてのお墨付きを得た。

中国が人民元のSDR入りを目指し、動き始めた当初は、懐疑的な見方が多かった。資本規制が未だ残り、中国人の外貨建て資産売買と外国人の人民元建て売買は厳しく制限されている。人民元相場も徐々に自由化が進んでいるとはいえ、一日の変動幅が決められ、その変動幅が段階的に拡大されるというプロセスにある。

しかし、IMFがSDR入りに前向きの姿勢を見せ、米国も人民元自由化を促すステップとして認める方向に廻ったことで、大勢は決まった。

そもそもSDRとは、合成通貨とも言われるが、IMF加盟国に出資額に応じて割り当てられる。民間の貿易決済に使われることはなく、IMFと加盟国の間で、例えば、金融危機の際に、緊急流動性として供給される。従って、用途は限定的だが、SDRに組み込まれることにより、米ドル・ユーロ・円・ポンドに次ぐ第五の国際通貨として認知されることになった。これまでのSDR構成4通貨の比率は米ドル41.9%、ユーロ37.4%、ポンド11.3%、円9.4%となっていたが、今回、人民元が11%になった。これで米ドル・ユーロに次ぐ第三の国際通貨となり、円よりもウエートは高くなった。トバッチリ(?)でユーロ比率が減少。

それでは、この人民元の国際金融の世界での歴史的正式デビューの市場への影響はどうか。

理論的には、自由化が進行することで、人民元への需要が高まり、人民元高となるはずだ。しかし、既述のごとく、さまざまな制約が残るので、短期的な影響は軽微と見られる。そもそも、実際にSDRに組み込まれるのは、2016年10月とされている。

しかし、長期的には、中国の債券市場に外国人投資家が参加することにより、人民元建て債券の売買が国際的に拡大することになろう。特に、中国と経済関係が強い新興国の中央銀行が外貨準備として中国国債などを保有する可能性は強い。他の中央銀行も、外貨準備構成比率は米ドルとユーロに偏在しているので、多通貨分散運用の一環として人民元建て債券保有に動きそうだ。

とはいえ、それで、人民元相場が上昇するとは言い切れない。自由化が進めば、人民元を買う投資家もいれば、売る投機家も市場に入ってくる。特に、米利上げの過程で、中国からマネーが流出するなか、ヘッジファンドが投機的に米ドル買い、人民元売り攻勢を仕掛けることも可能になるのだ。


なお、米国は、人民元SDR入りの条件として、資本規制撤廃・人民銀行介入の排除を強く求めてゆくだろう。特に、「通貨安競争」と思われるような介入に対しては、厳しく目を光らせることになりそうだ。

いっぽう、中国は巨額の米国債を保有している。米利上げの過程でその米国債が売られると、ドル金利が急騰する。中国にとって、保有米国債は米国経済を揺さぶる「経済的武器」となるのだ。いっぽう、ドル金利上昇で米国債が下がり損をするのも中国だ。今後は、米国債が外交的手段として利用される可能性にも注意が必要だろう。

2015年