豊島逸夫の手帖

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いよいよ10月雇用統計!

2015年11月6日

イエレン議長が、4日の米下院金融サービス委員会での証言で、12月利上げの可能性について、「ライブ」という形容詞を使った。中央銀行家のコメントとしては異例の言葉使いだ。日本でライブと言えば、生中継などの臨場感を表わすが、12月利上げが「ライブ」と語られると、俄かに切迫感が強まる。

そこで、10月雇用統計発表が、いつになく注目されることになった。

今回は、雇用統計の見方に、一つ大きな変化がある。

ヘッドラインといわれる非農業部門新規雇用者数(NFP)を市場が評価するにあたり、利上げを正当化するに足る数が、20万人前後から、16万人程度まで引き下げられていることだ。

毎月雇用統計をフォローしていた立場からすれば、サッカーのゲーム中に、いきなりゴールポストの位置を変えられた感がある。

16万人程度で良しとするならば、9月のNFPが14万2000人、7、8月分も下方修正され、それぞれ22万3000人、13万6000人となった「ビッグ・サプライズ」はなんだったのか。

議論としては、失業率が5%の大台も割り込むかと言われるほど完全雇用に近づけば、新規雇用者数も逓減傾向を示して当然という考え方である。これで、失業率は低下、新規雇用者数も低下、という現象を説明できる。

しかし、それならば、9月の雇用統計悪化で、あれほど市場が当惑することもなかったはず。

結局、FRBとしては、ここまで利上げについて語られ議論された挙句、2015年利上げ無しでは、信頼性が毀損するということなのだろう。なんとしても12月利上げを「強行突破」するとの意気込みが感じられる。

FOMCメンバーの発言も、タカ派デュオといわれるブレイナードとタルローの両FRB理事が、音なしの構えに戻った。ブレイナード氏などは「市場は既に利上げを予想して、利上げ2回分に相当するマネー収縮が生じている。」と発言。もう既に実質的には利上げが始まったも同然なのだから、FRBは動かないほうが良い、との意見だ。これにより「FRB内部の反乱」とまで書かれて、イエレン議長も、FOMC参加者のマーケットへの情報発信に気を使って内部根回しをしたのかもしれない。

タカ派発言を封印したうえで、自らライブと語り、市場も素直に12月利上げに向け臨戦態勢に入っている。FFレートと相関が強く注目されている米国2年債利回りも、9月雇用統計悪化発表後は一時0.5%台まで急落したが、直近では俄かに0.8%台まで急騰中だ。短期金利が短期間で0.3%前後上昇する現象は、相場の急変を映す。

それゆえ、10月雇用統計に関しては、好転すれば、マーケットに、大きなサプライズはなさそうだ。とはいえ、失業率が9月5.1%から10月5.0%に下がると、4%台が視野に入り、利上げに足る労働市場改善を印象づけ、ドル高円安が加速しそうだ。

サプライズは、NFPが8、9月の13万~14万人水準を更に下回る場合であろう。

さすがに、3か月連続で14万人以下となると、利上げ先送り論が、またぞろ浮上する可能性がある。イエレン議長の脳裏にも、12月に利上げしたものの、来年早々に、利下げに追い込まれるという悪夢のようなシナリオがよぎるのではないか。ただ、12月FOMCまで、更にもう一回、11月分雇用統計もあるので、拙速にばたつく印象は決して与えないであろう。

なお、平均時給も極めて重要な指標だが、遅行性があり、しかも構造要因に根差す統計数値ゆえ、月次で大きく変化することは稀だ。かりに大きく変動しても、統計的に「ノイズ」として例外扱いされる可能性がある。むしろ賃金指標としては、四半期ごとに労働省から発表される「雇用コスト指数」のほうが最近は注目度が高い。2015年Q1、0.7%↑、Q2、0.2%↑、Q3、0.6%↑で直近は上昇傾向を示している。とはいえ、インフレ率をFRBの安定目標である2%に押し上げるには、雇用コスト指数は3%の伸びが必要とされているので、完全雇用⇒賃金上昇の好循環は未だ確認されない。

最後に、株式市場で予想される雇用統計への反応は、どっちに転んでも、上げ。とにかく一回でも利上げしてもらって、モヤモヤ不透明感を晴らしてほしい、との思いが市場内では強い。いっぽう、利上げ見送り論が再浮上すれば、緩和継続予測のもと、流動性相場に戻る。グローバルに俯瞰しても、日銀は追加緩和切り札温存。ECBは量的緩和とマイナス金利の合わせ技。上海株は安値から20%以上反騰。リスク取りやすい市場環境が背景にある。

ずいぶん都合の良い見方といわれそうだが、これが市場最前線の実態といえる。

ひとつ要注意は、郵政三社株価への影響。

短期投資家は、利益確定売りのタイミングを虎視眈眈と狙っている。雇用統計の大幅好転で、益々12月利上げ説が強まれば、投機マネーが売りを囃す格好の口実となりかねない。市場の利上げアレルギーが解消されたわけではないのだ。

金価格は、利上げ切迫感を映し、1100ドル台まで続落。織り込み済みとはいっても、いざ、利上げとなれば、やはり売られる。そこが長期的買い場。

さて、本稿は宮崎にて執筆中。新潟⇒宮崎⇒青森。明日のFP協会主催セミナーは、午前中一般投資家向け2時間、午後FP研修2時間で喋りっぱなしになる。ので、今夜は宮崎牛でスタミナつけ、夜10時半の雇用統計発表までにはホテルに戻る。冬時間になったので、日本時間9時半から10時半になった。

写真は、現在進行中の日経マネー対談記事。ちら読み。そして、寒くなり、しっぽと前足出して、寝所にこもる黒猫。

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2015年