豊島逸夫の手帖

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気になる「米利上げ後の世界」

2015年5月21日

4月のFOMC議事要旨を読みつつ、連ドラの4月29日放映分の再放送を見ている気がした。既にドラマは5月21日まで進行している。

4月末から、マーケットは三つの大きな変化に見舞われた。

1.米国経済の消費・製造業関連指標の低迷・悪化

2.ドイツ発の世界的金利波乱

3.ギリシャ情勢混迷。救済延長期限まであと6週間に迫り、デフォルト・リスク高まる

その結果、市場では、もはや6月利上げは、「議論リストから外れた。」と見られている。既に、利上げ予測の中心軸は9月に移り、年末から来年まで先送りとの観測も増大中だ。

そもそも、米利上げに関して、開始時期ばかりに関心が偏っている。しかし、個人投資家向けセミナーで直接対話して感じることは「個人にとって、0.25%の利上げが6月か、9月かという差が、どれほどの意味があろうか。」という事だ。

もはや利上げ開始は覚悟の上。

そこで、一般投資家が最も気になるのは「利上げ後の世界」。即ち、金利上昇の軌道、そして、今回の利上げサイクルの最終的落としどころだろう。

そこで、まず、金利の上昇ペースだが、イエレン議長は「毎会合で、その時点でのマクロ経済データを吟味しつつ決める。」ことを明言している。FOMCメンバーの発言を集約すると、「慎重にスローペース」ということになりそうだ。筆者は、渋滞の高速道路での「ノロノロ運転」に例えている。少し前進しては、しばらく止まり、というペースである。シカゴ連銀エバンス総裁は、18日の講演で、「2会合ごとに1回のペース」との言い回しで語っている。一回の利上げ幅を0.25%とすれば、今年0回から2回、来年3回から6回程度の頻度のレンジが想定される。2016年末に最大2%程度、最少で1%弱ということになる。2017年末が今回の利上げ終着駅とすれば、3%前後ということになろうか。

3%という水準は、過去のFFレートの推移を振り返れば、利上げ開始時点のごときレベルである。それが、今回は、着地点。

歴史的にみれば、今回の利上げサイクルは、過去に例を見ない低水準かつスローペースということになりそうだ。

この想定に関して、例外的サプライズがあるとすれば、二つ。

一つは、利上げを急ぎ過ぎて、経済成長が腰折れ。不況がぶり返し、利下げへ転換、更に量的緩和に戻らざるをえなくなるシナリオ。これは、もっぱらハト派が引き合いに出すケースだ。

二つ目は、利上げが遅きに失し、インフレが進行。慌てて急ブレーキを踏むごとく、利上げピッチを早めざるを得なくなるシナリオである。これは、タカ派が懸念するケース。

この二つのサプライズを引き起こさずに、利上げを完了させるのが、イエレン議長に課された任務であろう。

なお、利上げが無事終了しても、4兆ドル以上に膨張したFRB資産規模を、「平時」対応の水準、即ち1兆ドル程度まで減らすという「出口戦略」の難関が待ち受けている。それこそ、壮大な実験である。

最近のFOMCでは、保有国債の償還分の再投資を止める、あるいは、リバース・レポなどの専門的議論が、かなり進んでいるようだ。しかし、未体験ゾーンゆえ、やってみないと分からない不透明感がつきまとう。ハト派のイエレン氏が、タカ派的仕事を実行する役回りになるのも、なんとも皮肉な話。あるいは、新FRB議長に代替わりしているやもしれぬ。

2020年の東京オリンピック・イヤーに米国経済がどうなっているか。予断を許さない。

今日書いたことは、昨晩収録した【ザ・金融闘論】で話したことの一部です。

写真は手作りの「意見には個人差があります」フリップ。

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これみて、笑える人は、NHK土曜深夜の、今夜も生さだまさし、を見ている人だね。NHKとして、不適切と思われることを、さだが、口走ったとき、横からディレクターが画面に流す。昨晩は、たとえば「ギリシャ危機で115円の円高になったら、私、ドル買います。」とか発言して、そのときに、このフリップを手で持って話したり(笑)。

以下↓で無料視聴できるよ。最初の観客リハーサル風景は音声入ってないけど、本番は1時間20分くらい。結構なかみ濃く、面白い掛け合いで私自身も楽しめた。ああいう番組なら、またやってもいいな。

http://channel.nikkei.co.jp/businessn/150520kinyu/

2015年