豊島逸夫の手帖

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習近平は上海株急騰も抑え込めるか

2015年6月9日

相場は悲観の中に生まれ、懐疑の中で育ち、楽観の中で成熟し、幸福感の中で消えてゆく。
著名投資家テンプルトンの相場名言だが、上海株は「もうバブルではないか。」との懐疑的な見方をあざ笑うかのように急騰を続け、「もっと上がるかも。」という中国人個人投資家の楽観のなかで成熟期を迎えているように思える。
問題は、多くの投資家が「株が上がった!」との幸福感に浸るなかで、来たるべき急反落局面ではパニック的心理が市場を支配する可能性が強いことだ。劇場内で多くの観客が一斉に狭い出口に殺到するイメージから「劇場のシンドローム」といわれる現象だ。
特に、投資家の溢れる買いエネルギーが、海外に向かうことが規制されている中国市場では、高利回りの理財商品や株など、その時々の「旬」の商品にマネーが集中し、投機色が強まりがちだ。 そこで、当局は信用取引規制などで過熱を抑え込もうとする。

通常の上げ相場であれば、市場心理を冷やすことで、ある程度、マーケット心理をコントロールできる。
しかし、今年に入ってからの、異常なまでの株価急上昇劇は、多数の株投資未経験者まで巻き込み、「買い」に「売り」にネズミの大群のごとく殺到する様相を呈している。日本の競馬場にみられるような、場外の「予想屋」たちが、個人投資家たちに囲まれ、露天商のごとく街頭で株の辻説法する光景が象徴的だ。
ここに突発的な規制を入れると、まさに「バブルの破たん」的な株急落を誘発するリスクをはらむ。その結果、「負の資産効果」が、個人消費に悪影響を及ぼすシナリオは、内需型経済モデルへの移行を目指す現政権にとって最も避けたいところだ。
しかし、既に上海株式市場は習近平も力で支配できない世界になってしまった。
独り歩き始めた相場が、「幸福感の中で消えてゆく。」過程が、中国経済のあらたなリスクとして浮上しつつある。

更に、株価が急反落した場合、これまで株式市場の喧騒で覆い隠されていた理財商品のリスクがあらわになる可能性にも要注意だ。
シャドーバンクが組成した理財商品の市場規模は色々な推定があるが、10兆元はくだらないと見られる。そのうち、デフォルトの可能性をはらむ商品は、10%以下と推定されている。とはいえ、株急落の過程で逃げ遅れた初心者投資家たちは、疑心暗鬼となり、「理財商品破たんの一例」だけを見せられただけで、取り付け的な行動に走るかもしれない。
いまだに、理財商品を保有している多くの投資家は、かりに「デフォルト」になっても、官が保護してくれるという、モラルハザードに陥っているのが実態だ。そこで、2015年中に、政府は見せしめ的な「選別的デフォルト」で個人投資家のリスク意識を鍛えようと身構えてきた。しかし「債務不履行」という言葉さえ知らない初心者相手ゆえ、秩序あるデフォルトが実行できるか、はなはだ危うい面は否定できない。そもそも2011~12年をピークとする販売時期には、販売側の銀行にも、リスク開示などのコンプライアンスが欠けていた。
株急落が理財商品不安を連鎖的に再燃させると、システミック・リスクに発展してしまう。
ただでさえ、不動産価格下落による「負の資産効果」が顕在化している。 中国版GPIFともいえる公的年金の株購入で株価の下げを食い止める案も検討されるかもしれないが、日本と異なり、個人投資家が買い本尊なので、その効果は予見できない。
NYのベテラン・ヘッジファンドでさえ、「中国株は個人の動きが読み切れず、手が出せない。」と語るほど予測が難しいのだ。

足元では明日早朝発表予定のMSCI(試算算出会社)の定期的指数見直しで、A株が新興国株指数に組み入れられるか否かに、市場の関心が集まっている。採用されれば兆円単位の新たなマネー流入が期待できるからだ。しかし、採用されないと、一転売り材料になれてしまう。
市場の目が米利上げやギリシャに向いている間に、チャイナ・リスクがジワリ醸成されつつある。
そして、中国株が下がると、中国人個人投資家の目は金市場に向いてくる、やはり金市場における中国市場の存在感は大きい。

さて、今晩は、BSフジのプライムニュース(8時から10時まで2時間!)生出演。中国について。そもそも、この番組は政治番組なので、経済の話は、どちらかというと副次的。まぁ、私は参加することに意義がある、という感じかな。打ち合わせも緩く、でたとこ勝負か。
あとのお二人は中国専門家だから、個人的には、非常に興味ある。

http://www.bsfuji.tv/primenews/

2015年