豊島逸夫の手帖

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原油急落、投機の現場は肉弾戦

2015年8月4日

筆者が銀行からNYMEXのフロアーに場立ちとして派遣されたときのこと。そこは肉弾戦。相場がヒートアップしてくると、タックルもどきをかまされ、吹っ飛んだこともある。まさにカルチャーショックであった。後にも先にも日本人でNYMEXフォロアートレーダーをやった例は他に聞かない。

そのような体験を経て、原油市場を見る目を、カラダで覚えてきた。

昨年来の原油急落については、OPECが価格支配力を自ら放棄した時点で、投機筋に委ねられたといえる。

そして、短期間で原油価格が半分程度まで急落するようなパラダイムシフトが起きると、必ずと言っていいほど、レンジ相場に入るもの。

だから、本欄2月4日付け「原油は底打ちしたか」にて、「40~60ドルの間でかなり荒っぽい展開になる。」と記した。

現在は、イランの原油市場復帰などをテコに、投機筋は売り攻勢を強めている。しかし、投機筋は原油を持っていないのに売りを増幅させている。所詮、臨界点に達すれば、原油先物売り契約を買い戻す宿命にある。ゆえに、40ドル台前半にまで下がれば、レンジの下限が視野に入る。その臨界点を探るヒントは、原油価格の現先スプレッドにある。スプレッドが拡大傾向になれば、先高ということで底入れの兆しと読める。

その過程で、レンジの中での短期的値動きは、プロとて予測を頻繁に外す。誰かが勝てば、誰かが負ける。ゼロサムゲームの世界だ。まして、個人投資家が、そこに入ってポジションをとるなど、無茶な話だ。それでも、個人は、「自分だけはなんとか安値で買い、高く売って儲けよう。」と目論みがちなもの。こうなると人間の業である。

その業を利用して手数料を稼ぐのが商品先物業者だ。

なお、今後の見通しだが、一般紙まで、「中国発、商品安」を大々的に伝えるようになれば、NYMEXのフロアー感覚では、ぼちぼち「一相場終わり」。まして、近年はアルゴリズム取引が席巻しており、相場のサイクルが短期化している。

しかも、ドッドフランク法の影響で、大手投資銀行が相次いで原油売買から撤退した結果、NYMEXに売買注文を出す「本尊」は、ほんの一握りのコモディティートレーダーに限られてきた。

結局、彼らのポジション次第で、短期的価格動向が決まる。そして後講釈だけが、外電などで、まことしやかに流れる。

エクセルシートのデータを見て説明するアナリストは、現場フロアーからみれば、なんとも、ひよわな存在に見えるものだ。

そして、今日の写真は、NYMEXフロアーのほかに、一服の清涼剤として我が家の庭に咲いたユリ。

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2015年