豊島逸夫の手帖

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中国版量的緩和開始か

2015年5月20日

筆者は2002年から中国の取引所や大手商業銀行のアドバイザリー・ボードに招へいされてきたので、現地の人的ネットワークを通じて、生の情報に接する機会が多い。

最近の話題は、地方自治体が抱える巨額の債務という「時限爆弾」だ。簿外扱いなので、色々な推定が乱れ飛ぶが、総じて、20~30兆元の規模に達する。

そこで、中国政府は、大手銀行から地方自治体への融資を、地方債にスワップする手法を認め、「巨額融資の安楽死」を模索してきた。

地方自治体に地方債を発行させ、債券市場を通じ、大手銀行に購入させるスキームだ。これで、支払い金利はほぼ半額になる。いっぽう、大手銀行側の地方債購入に対する抵抗感を和らげるため、地方債を中央銀行からの資金調達の適格担保とした。

中央銀行が国債を購入する日米欧型量的緩和とは異なるが、実質国策銀行である大手銀行が、地方債を購入するので、本欄15日付け「年内続くか、日米欧中の四極同時緩和」では、「なにやら、中国版量的緩和を連想させる非伝統的手段」と書いた。

そして、18日に、この新制度で初とされる事例が、当局のウェブサイトで明らかになった。江蘇省が、総額522億元(約1兆円)の地方債を発行したのだ。公表された利回りは、3年債で2.94%、10年債で3.39%。中国国債より若干高めの設定だ。それでも、これまでの融資金利より半額以下となる。

明らかに、地方自治体の金利負担を軽減する救済策である。

この一連の売買スキームを、債券市場への「行政指導」で実現させるところが、中国ならでは。

そもそも、地方政府が、これほど巨額の債務を背負う結果になった原点は、リーマンショック後に実施された、超大型財政支出による公共工事にある。

この負の遺産を一掃せねば、中国の「新常態」実現も覚束ない。

なお、もう一つの「時限爆弾」ともいえる巨額の理財商品も、債券とのスワップの可能性がある。シャドーバンクが組成して、大手銀行が販売した高利回りの金融商品が、富裕層中心に大量に購入され保有されている。石炭などマクロ経済ストック過剰の象徴のような資源に投資している事例が多いため、債務不履行懸念がつきまとう。しかし、顧客の金融リテラシーも低く、販売側のディスクレ・コンプライアンスは無きに等しい時期に販売されたので、デフォルトが顕在化すれば、取り付けのリスクをはらむ。この問題の抜本的解決は、理財商品をハイイールドのジャンク債とスワップするしか方法はなかろう。そのための新たな債券市場のインフラ整備が喫緊の課題となりそうだ。

中国の地元マーケット関係者は、この「衣替え」の推移を注意深く見守っている。

仮に、目論見が外れれば、チャイナ・リスクの顕在化が、国際市場にも波及するは必至だからだ。

そして、金価格は、案の定、下がったね。

昨日、金に強気の記事が日経に出た当日のNYで20ドルも急落。

相変わらず、「日経が書いたら売り」は健在と見える。

実は、私も取材されていて、弱気のコメントしたが、商品部としては、強気のトーンで書きたかったので、強気ほうのコメントが載った。

概して、下がる話は書きたがらない。

相場なんだから、上がることもあれば、下がることもある。

バイアスがかかると読者の信頼を失う。

2011~12年に大量発行・販売された理財商品の販売現場。

銀行支店のカウンター。筆者撮影

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さて、今晩の日経CNBC公開収録の模様のネット生配信は、こちらから。

【ザ・金融闘論】

http://channel.nikkei.co.jp/businessn/150520kinyu/

それから、英語の勉強したい人は、日経アジアン・レビューに昨日載った私の英文原稿でも読んでくださいな(笑)。

http://asia.nikkei.com/Politics-Economy/International-Relations/Russia-China-woo-Greece-awaiting-possible-euro-exit

2015年