豊島逸夫の手帖

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既にあった、米国側が描く南沙戦争シナリオ

2015年10月28日

NY市場関係者が、「南沙戦争を 想定した250ページもの文書があるよ。」と送ってきたのが、米国の軍事関係では最も権威あるランド研究所が出版した文献。


The US China Military Scorecard. Forces, Geography,and the Evolving Balance of Power 1996-2017
と題する米中軍事能力のバランス・オブ・パワーの詳細な分析と予測だ。

南沙諸島を巡る米中軍事能力の比較については、2010年には米国優位であったが、2017年には、ほぼ拮抗すると結論づけている。

その予測の根拠は、2017年までには、中国側ミサイル攻撃のレンジが、嘉手納基地,グアムのアンダーセン基地を始め、多くの米軍施設に拡大されることだ。

例えば、中国軍のDF-21Cミサイル6-9発を嘉手納基地に打ち込めば、同基地の滑走路に、直径10メートルのクレーターができて、8時間閉鎖に追い込める。クレーターが5メートルならば、4時間の閉鎖と予測している。

このDF-21Cミサイルから飛散する小爆弾群は、ロケット力を借りずとも、超高速度でコンクリートを貫通できる能力を持つ。滑走路攻撃用弾頭なのだ。

南沙諸島防衛を援護できる中国人民解放軍基地の数は、1300キロ圏内で、9基地。

それに対して、米軍による、南沙諸島の滑走路攻撃と、中国軍戦闘機の駐機場攻撃の実戦的シナリオも詳細に検証されている。

なお、本レポートでは、日本の自衛隊の役割には、いっさい言及していない。

このような戦争シナリオがいきなり生じるとは思わないが、偶発的衝突の可能性は否定できない。習近平の支配も、軍の末端にまで、完全に行き届いているわけではなく、米軍機に接近した中国軍機パイロットがパニック症状に陥る可能性があるからだ。

なお、ときあたかも、29日から独メルケル首相が訪中する。そこで、南沙諸島について、同首相がコメントするとは思えないが、完全に無視もできまい。欧州は中国に接近。米国は中国を敵視。

一帯一路で結ばれる欧中。海洋国家として米国と太平洋二分割を目論む中国。

習近平訪英で、米英の対中温度差をあらわにしてみせた中国だが、今後も、欧州と米国の立ち位置の違いは、より顕在化しそうだ。

2015年