2015年1月26日
欧州がギリシャのユーロ離脱をおいそれと許容できない最大の理由は、地政学的リスクだ。バルカン半島は、中国などから見れば、地中海の入り口に当たる戦略上の要衝。
「中国は我が国の空港や港を買いつつある。」
筆者がアテネで市民と直接対話したときに聞いた発言だ。
たとえば、中国の国営海運会社コスコ(中国遠洋運輸公司)はアテネ首都圏の外港都市ピレウスのコンテナ港運権益を35年契約、約34億ユーロの対価で購入している。さらに、ピレウス港近郊の陸運への積み替え施設と梱包センターも既に買収しており、ピレウス港湾運営会社の株式23%取得の意向も示しているという。
クレタ島の港に食指を動かし、ギリシャ第二の都市テッサロニキでは、コンテナ・ターミナル入札に参加したところで市民の反対運動に遭ったという経緯もある。
加えて中国資本は、アテネ国際空港の20年契約の権益(2026~2046年)に関して5億ユーロの対価をギリシャ政府に提示している。
「アジアから見れば、欧州の入り口にあたるギリシャのインフラを、どさくさに紛れ買い占めている。」というコメントもあった。
中国人への警戒感も強まっている。
ピレウスでは、中国人雇用主とギリシャ人被雇用者の間で賃金交渉がもつれている。
筆者も、まず中国人かと問われ、日本人と分かると警戒心を解かれた。
中国側は、温家宝前首相がギリシャを訪問したとき、「困難な状況にある良き友人を助けに来ました。」と述べたが、現地の新聞は「中国来襲」と書きたてた。
現地アテネで感じたことは、NATOとしてもドイツとしても、地政学的観点からギリシャをおいそれとは切れない現実であった。
なお、日本からアテネに行くには北京経由ルートが安い。北京とアテネ間には直行便があり、機内には中国人出稼ぎ労働者の姿が目立つ。ギリシャ関連情報も東京より北京のほうが豊富であったりする。
ちなみに、ポルトガルを視察したときも、ポルトガル政府が中国の国有電力配送会社の国家電網公司とオマーン・オイルに電力会社RENを5億9200万ユーロで売却に合意していた。
ポルトガルはユーラシア大陸最西端のロカ岬に象徴されるごとく、欧州とアメリカ大陸・北アフリカを結ぶ地政学的に重要な拠点にある。リスボン空港は将来一大ハブ空港になれる可能性をひめる。
なお、ギリシャ債務危機に関しては、「払えぬものは払えぬ。」という発言に、借金も身の丈を遥かに越すと借りた者勝ちとの実態を思い知らされた。第二次ギリシャ救済が合意されデフォルトが寸前で回避されたとき、現地の新聞の見出しは「ねばり勝ち」。
そもそもギリシャは、歴史的にアテネやスパルタなど都市国家から始まっているので、国家への帰属意識が薄い傾向がある。
「この国は独裁体制が崩壊してから二大政党が世襲的に首相の座に座り続けた歴史がある。腐敗も横行し、税務署員に賄賂を渡せば納税額も減らしてもらえる。国民も順法意識は欠けている。駅前は無秩序駐車がまかりとおる。駅から半径100メートル以内の道は全て駅までの通勤車で埋まって、渋滞が常態化している。警察も取り締まらず、運転手も駐車ルールを守ろうという意識が感じられない。そういう国柄だからこそ、国の財政の真の数字を偽って報告するんだ。それに、国民の多くは、自分の庭が手入れされていれば、人の庭がどうなろうと無関心。だから、危機に際して国民が団結して乗り切るという発想が希薄だ。」
これも一アテネ市民の発言である。
家庭訪問した一家でも、母はユーロ離脱派、娘はユーロ離脱反対派と真っ二つに割れていた。
共通の認識は「これ以上の緊縮は我々に路上生活者になれと言うに等しい。」ということだ。
その娘は歯科医なのだが、市民に虫歯治療の余裕があるはずもなく、開店休業状態。そこで、筆者のギリシャ語通訳になってくれた。料金交渉のとき、まっさきに出た言葉が「領収書が必要か?」。
その家庭は、一見こぎれいな中産階級の家だったが、トイレを借りたら、水が出ないまま放置されていた。
それでも、その家は「勝ち組」に属する。負け組の40代夫婦と話したときは、夫婦とも失職して、蓄えがあと半年で底をつく。それ以降は「教会の世話になるしかない。」しかしプライドが高いので「隣町の教会へ行くつもり。」と語った。
財政危機に遭遇した国では、勝ち組と負け組の差が鮮明だ。国民全員が貧困に窮しているわけではない。特権階級は別にして、庶民レベルでは普段から蓄財を心掛けて資産のストックを持っていた人たちが勝ち組となっている。この事実は、日本人への教訓とも感じた。
なお、金価格へのギリシャ問題の影響は、不安感が金買いを誘う面と、ドル高が金の下げ要因となる面が、対峙しています。
24日日経朝刊商品面でもコメントしましたが、1300ドル台を維持するのは難しいと感じます。中期的にはドル高でディスインフレ、しかも、米利上げも(遅れるにせよ)視野に入るからです。
金(1290ドル台)>プラチナ(1260ドル台)の異常事態も、当面続きそうですが、いずれプラチナ高で是正されると思います。
添付写真は筆者撮影。
ギリシャ国会議事堂
アテネの家庭訪問風景
アテネ市街で会った勝ち組の子女たち。
平均40ユーロのアパレルを買っていた。
さて、先週水曜日の日経CNBCニュースコア30分拡大版に出演したときに、番組の最後にフリップに書いたドル円・日本株予測グラフについて、色々質問されました。「円高の落とし穴」を二つ入れたのは、想定外のリスク(スイスショックのような)が未だ2回が2015年に起こるであろうとの前提です。想定外ゆえタイミングまで見とおせるはずもなく、あの「落とし穴」の時期までは分かりません。ただ、その時は短期的に110-115円の可能性あり、ということです。(番組無料配信は明日まで)。
http://www.ustream.tv/recorded/57818141