豊島逸夫の手帖

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郵政上場

2015年11月5日

たまたま、ここのところ、全国飛び回ってます。

各地の旨いもの食べることだけが、モチベーションです(笑)。

昨日今日と投資の世界は郵政三社同時上場の話題一色。2本書いたので、ここに掲載します。

■かんぽバブルの兆し(11月4日夕方記)

前評判が上々であることは承知していたが、かんぽ生命がストップ高で引けたとなると、過熱気味の印象はぬぐえない。上場初日、売り出し価格を50%以上上回る水準で、なお買い注文が続くという現象。しかも、後場は日経平均の上値が重く息切れしている。このような市場環境で、なお買い続ける「本尊」は誰なのか。少なくとも、オーソドックスな株式投資家の動きとは思えない。仕手株化の匂いが漂う。トレンド・フォローのCTA(コモディティー・トレーディング・アドバイザー)などの仕掛けが考えられる。

今年は惨憺たる運用実績で今月の決算期を迎えるヘッジファンドも、一発逆転のチャンス到来とばかりに、意気込んでいる。

気になるのは、「一日で5割以上の上げ」に惹かれて集まってくる初心者投資家集団の動きだ。

これをキッカケに「コツコツ投資」を始めるのであれば、健全な流れだが、昨日講演した投資セミナーの後で質疑応答を受けた参加者たちのなかには、「一獲千金」の誘惑に駆られて郵政上場に期待感を寄せる初心者たちが多かった。それもシニアだけでなく、若い世代の参加者が目立った。側で心配げに見守る妻の姿が印象的だった。「投資はそんなに甘いものではない」と思わず肩を叩いたのだが、長年の勘で、誰が何言おうと、この人たちは変わらないだろうと思った。たぶん、彼らは、「講師は、しきりに諌めていたが、やっぱり旨い投資話はある。」と確信してしまったのではあるまいか。それこそ、ヘッジファンドの「カモ」になるまいか、気になる。

このような異常な熱気に包まれると、それぞれ個人の本性があらわになるものだ。用心深い性格であれば、まず、引いてしまう。しかし、「肉食系投資家」タイプは、沸々と体内から湧いてくるアドレナリンを制御できなくなるものだ。なにを隠そう、トレーダー時代の筆者が、まさにその典型だった。こんな偉そうなことを書いてはいるが、いまだに、市場が荒れると、カラダがほてってくる。まだ修業が足りないと思う。ただ、12年間NYやチューリヒの市場最前線で、相場の修羅場をくぐりぬけてきた体験があるので、リスク耐性だけは身についている。湧き出るアドレナリンを制御しつつ、努めて冷静に判断する術は心得ているつもりだ。

明日以降、市場に参入してくるかもしれない「にわか株式投資家」たちには、やはり、「コツコツから始めよ。」と説いてゆきたい。

■郵政株、今からでも、遅くはないか(11月5日記)

日本時間5日朝6時過ぎにフェイスブックの7~9月決算が、売上高、純利益とも四半期ベースで過去最高更新との結果が発表された。一株当たりの利益が事前予測の52セントを上回る57セント。

絶好調ともいえるフェイスブック株だが、12年5月18日に4億2100万株もの新規株式公開(IPO)したときは、散々な結果だった。公開価格は38ドル。公開直後に瞬間タッチで45ドルまでつけたが、その後、20ドル台を低迷した。

当時は、投資とは無縁の大勢の人々がフェイスブックを使っていることで、株式上場に興味を持った。その結果、多くの初心者個人投資家が、フェイスブック新規公開株の買いに動いた。しかし、彼らの夢は無残にも打ち砕かれた。相次ぐ「フラッシュクラッシュ(瞬時の急落)」現象や、取引所のシステム不備の事例などで、株式市場への不信感が募った時期だったのだ。

しかし、13年後半から、フェイスブック株価は一転上昇を開始。ほぼ一直線で現在の100ドル台の水準まで、約4倍上がっている。

そもそも、ネット関連事業はマネタイズ(収益を生む)が難しいセクターとされてきた。しかし、フェイスブックは、様々な付加価値を生むアイディアを実現させ、広告収入も増やした。

今回の決算発表でも、ザッカーバーグCEOは、フェイスブックの動画プラットフォームが、今や1日80億回の閲覧数を記録していることを強調している。

更に、今後の目玉はAI(人口知能)機能。目が不自由なユーザーでも、アップロードされた画像を「閲覧」できる、質疑応答会話機能を開発している。

翻って、今回の郵政上場を見れば、先端企業フェイスブックの対極にある巨大国営企業の民営化だ。しかし、郵便局という庶民層に深く浸透しているネットワークが発行する株式ということで、これまで投資とは無縁だった人たちが興味を持ったという点では共通項がある。更に、今後は持続的に収益を成長させるための事業展開が、株価の決め手になることも同じだ。

いっぽう、上場時の景色は全く異なる。

郵政上場は、絶好調の滑り出しを見せた。

しかし、フェイスブック上場は、過去最大級のIPO売買高に、取引所のシステムがパンクして、顧客からは「売買の注文がとれない」などの苦情が殺到するほどの混乱となった。IPO引き受け会社主幹事モルガン・スタンレー・スミス・バーニー社が、公開価格を死守するため、初日大引け間際の投資家からの売り注文を「全買い」で死守した。とはいえ、IPO幹事証券団は手数料として1億ドルほど得たと米メディアは報じた。個人投資家にとって「後味の悪い新規公開」となったのだ。

それに比べると、今回は、同じ「鯨」級の上場だが、オールジャパンの幹事証券団がスクラムを組み、国の後押しで、スムーズに事は運んだ。

ただ、かんぽ生命株は初日ストップ高で終わるなど、フェイスブックとは対照的に高値圏から、今後の展開が始まることになった。「これまで投資とは無縁であった人たち」は、売るべきか、持ち続けるべきか、心の葛藤を経験していることだろう。

これから長期的には、首尾よく、高値圏が維持され、更に巡航速度で株価水準が切り上げってゆくシナリオが理想的だ。

その結果は、ひとえに、成長力の実現にかかっている。

初心者投資家も、企業の稼ぐ力を見抜く目を養わねばならない。

幸い、ラグビーに例えれば、ゲーム開始直後から、「アドバンテージ」を得た。とはいえ、今後のゲーム展開は、ターンオーバーされることもあろう。

ラグビーは集団競技だが、個人投資家は孤独の戦いを強いられる。

幸運な初心者株主は、「アドバンテージ」を生かし、まずは、株式投資についてのお勉強に励むべきだろう。

初心者のいだく不安は、殆どの場合、知識不足による「未知への不安」なのだ。

じっくり学んでから、次の一手を打っても、遅くはない。

「今回は乗り遅れたが、なんとか、私も、IPOパーティーに参加したい。」と考え始めた初心者たちも、まず、株についての基礎知識を蓄えたうえで参入しても、決して遅くないことをフェイスブックの事例は示している。

それから、日経ヴェリタス、今週号の私のコラム「逸's OK!」に、「2016年、世界波乱の予告編」と題して書いてます。

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2015年