2015年7月24日
日本企業のコンプライアンス意識が高まった近年、日本企業の経営陣にひとつの変化を感じている。
従来型のモーレツ・サラリーマンが減り、代わって「好かれる三男坊」タイプが増えてきたのだ。
ある大企業の部長職にある後輩に、切羽詰まったような顔で、「うちの専務とサシで会食してくれ。」と頼まれたときのこと。
会ってみれば、実に好人物で、すっかり意気投合してしまった。
その翌朝。当の後輩が事務所を訪れ、前夜の会話について詳細な「事情聴取」を始めた。対話の話題、話しぶり、その時の表情。訝しく思い、その理由をただしたところ、やっと本音を語り始めた。
その直属上司は、事実、好人物で他の部署の同僚たちからも羨ましがられるほど。しかし、職場の上下関係のなかに入ると、「何を考えているのか分からない」。いざリストラにでもなればニコニコしながら「黙って切る」タイプだと言うのだ。旧来型の脂ぎったモーレツ人間のほうが、まだ、分かりやすかったとも語る。
上司に逆らえない日本企業の中で、上司の本音を必死に模索する後輩の姿が痛ましかった。
「よそさんがやるので、うちも。」という意識で、コーポレート・ガバナンス・コードを導入しても、長年染みついた企業風土が一夜にして変わるはずもない。
東芝の事例を見て、「他人事ではない。」とひそかに思うサラリーマンの本音が居酒屋などでは噴出している。
「アベノミクスも、イノベーションを拒むような企業風土を変えることから始める必要がある。」
日経QUICK創立20周年セミナーで、「日本経済の今後」について聞かれたとき、筆者はパネリストとして、こう発言した。
企業文化を変えることは容易ではない。しかし、東芝の教訓が、良い意味での「横並び危機意識」を醸成して、「よそさんもうちも変えねば。」との流れを生むことを願っている。
日本株の質的向上を認め、日本株運用配分を増やすための内部的準備を進めてきた米年金などからも、「やりにくくなった。」などの声が聞こえてくる。
いっぽうで、閉ざされた企業体質、サラリーマン気質は、なにも日本に限ったことではない、との海外からの意見も多い。
日経電子版21日付け「東芝、安保法制、外国人日本株投資への余波」が、英文原稿として日経アジアン・レビューに転載されたので、海外からの問い合わせが益々増えた。そこで、しばしば見られる反応だ。
例えば、欧州で特に一般化しているディナーの前のカクテル・タイムという風習。空腹にビールを飲み、立ちっぱなしで1時間以上雑談するという行為は、多くの日本人にとって、できれば遠慮したいところだろう。あるとき、親しい欧米の友人たちに、あのカクテルタイムを本当にエンジョイしているのか、ただしたところ、ほぼ全員がNOという答え。では、なぜ、参加するのか。理由は一つで「社内の情報ネットワークから取り残される。」との危惧であった。結局、日本の「サラリーマン居酒屋」と変わらない。欧米企業でも、社内セクターごとに「たこつぼ」構造になっている例は多い。CEOには逆らえぬ、という企業風土も珍しくない。COOとCO2は削減対象、と揶揄されるほどゆえ、社員も保身に走り、情報共有どころか情報隠匿に動く例も頻繁に見られる。
だから、東芝の事例についても、肩すくめて「それで日本株運用に影響が及ぶ話ではない」との反応も見られる。
これだけ叩かれれば、少しは反省するだろうから、東芝株は買いとの声さえある。
いずれにせよ、日本企業には「終身雇用制度」の影響がいまだに色濃く残る。上司の過ちが部下に引き継がれる。欧米なら、CEOが変われば、その時点で、過去は清算。ゼロベースからの再出発となる。よくも悪くも。
ここが、日本と決定的に違うところ。
やはり東芝が残した問題は重い。
さて、金価格は、1090ドル台で一服のような、でも、これで下げ止まったとは言えないような状況。
アジア時間で一瞬にして1080ドル台まで暴落したときの状況は、結局、高速度取引を駆使するヘッジファンドによる現象だった。でも、とにかく、それで1100ドル割れが現実の相場になってしまう。まったく、相場は理屈で計れないものだ。
それでも、上がり切った株より、早晩下げ切る金を買う動きは拡大している。