豊島逸夫の手帖

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ギリシャが今週IMF返済遅延したら、どうなる?

2015年6月1日

G7で今回の急速な円安進行は事実上「おかまいなし」ということになった。市場目線で見ると、その理由は、今回の円安は、NYが震源地のドル高だからだ。しかも、NYのヘッジファンドが、円売りの主体になっている。そもそも、投機的ドル買い円売りを誘発したのが、イエレン氏の年内利上げ示唆発言だ。いっぽう、日本側で、追加緩和などの円安要因が急浮上したわけでもない。

したがって、通貨安誘導のそしりを受けるいわれはない。

G7での話題は、もっぱらギリシャであった。

ルー米財務長官は、ギリシャのユーロ離脱に触れ、「アクシデント」という表現で、その可能性を示唆した。「アクシデント」のシナリオについては、本欄5月26日付け「ギリシャの偶発的デフォルトを懸念する市場」を参照されたい。

IMF(国際通貨基金)のHP掲載のマレー副スポークスマンと記者団との質疑応答記録にも、「ラガルド専務理事とルー米財務長官は、G7でドレスデンにいる。ドイツでは、ギリシャ問題のトピックが際立っている。」と記されている。

なお、ドレスデン発で、最も市場の関心をひいたのが、IMFラガルド専務理事の「ユーロ離脱は、一つの潜在的可能性」というドイツ紙での発言。「(ギリシャ問題は)公園の散歩のように気楽な話ではない。金融制度の安定を目指すIMFとしては、EU圏内での合意・解決を望むが、(ユーロ離脱の)潜在的可能性は残る。」と語っている。IMF専務理事ゆえ、市場には響く。

IMFチーフエコノミストも「ユーロ離脱しても、破壊的ではない。」と語っている。対して、ギリシャのバルファキス財務相は「IMFは2000年代半ばに信認欠如に至った暗い歴史を持つ。」と議会で発言。いずれも、先述の質疑応答で、指摘されている。

そのような状況下で、6月5日を皮切りに今月は4回にわたるギリシャ向けIMF融資返済期限が控えている。

そもそも、ラガルド専務理事とギリシャ問題の関係は根深い。

仏財務相時代、HSBCジュネーブ支店に銀行口座を持つ2000人以上のギリシャ人実名リストを入手。後に「ラガルド・リスト」と呼ばれたこのCDを、当時のラガルド財務相は、ギリシャの当時の財務相パパコンスタンティヌ氏に渡した。しかし、ギリシャ側は本格的税務調査に乗り出さず、国民の不満が高まった。その後、パパコンスタンティヌス氏が、CD情報をUSBへ移したとき、親族の名前が消えていたことが発覚して、執行猶予つき有罪判決を受けた。本件は、ギリシャの納税・徴税意識の希薄さを象徴する事例として、いまだに、語られている。チプラス現首相が、救済団から求められている改革案の目玉に「徴税制度改革」をもってきたのも、このような背景があるためだ。

しかし、救済団側は、「年金・労働制度改革」という「岩盤規制改革」を強く求め譲歩する気配はない。「ボールはギリシャ側のコートに投げ込まれた。」と主張する。

いっぽう、チプラス首相は「IMF融資返済より年金支払いを優先させる。」と公言。あたかも「そのボールは固すぎて打てないから、もっと打ちやすいボールを投げろ。」といわんばかりだ。

野球に例えれば、センターとライトの守りの「お見合い」によるポテンヒットのごとき「偶発的ユーロ離脱」が生じるリスクが生じている。

では、6月中にIMFへの返済が滞るとどうなるのか。

まず、ただちに「デフォルト」にはならない。

ギリシャは6月の返済4回分を月末(6月30日)にまとめて支払うことができる。これはマレー副スポークスマンも「前例あり」ということで公式に認めている。

更に、同氏は、IMFへの返済遅延の場合には「長いプロセスがある。」と述べている。まず、遅延を専務理事に正式通告して、IMF理事会が返済遅延と認定する。このプロセスに約2ヶ月かかるのだ。

但し、市場は、ただちに反応するだろう。

次に、返済遅延国と正式認定されると、どうなるのか。それは、IMFからの新規融資を受けられなくなるということだ。

マレー氏は「そもそも国際通貨基金は188ヶ国の基金で、我々にはカストディアンとしての受託責任がある。そこで、IMFから融資を受けた国は、188ヶ国から借金しているということだ。」と説明している。

ということは、国債デフォルトとは異なり、債券市場での資金調達の道がただちに閉ざされるわけではない。

とはいえ、7~8月の大量国債償還に備えるには、IMFを含めたEU、ECBのトロイカ救済団からの新たな「第三次救済スキーム」が絶対的に必要である。

かくして、ギリシャの信認は益々低下し、ギリシャ株は売られるだろう。

また、ただちにユーロ離脱とはならないが、地域共通通貨制度が不可逆的な事実との認識が崩れ、単なる国々の約束事と見られ、約束を守らない国が出るとの認識が広まるだろう。

市場の不安心理が募ると、日本にとっては、ジワリ円高要因となり、一時的にせよ円安の進行を抑制することになろう。連騰の株価には、調整売りのキッカケを提供することになりうる可能性をひめる。

ギリシャのモヤモヤ感は、金市場にとっては下支え要因となっている。1~3月期米国経済成長率がマイナスに下方修正されたことで、再び、利上げ時期後ずれの可能性が蒸し返されていることも、金にとっては追い風だ。

この点については、今日発売の週刊エコノミストの11~12ページに「円相場膠着崩れた裏にファンドの力技」と題する筆者原稿が載っている。

今日の写真は、1キロの骨付きステーキ。それをカットして一人前。相場が荒れると、肉食系に走ります(笑)。

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それから、私のテレビでの相方だった江連裕子キャスターが、杵屋の社外取締役になりました。話題になって、英文日経でも紹介されています。↓

http://asia.nikkei.com/Business/Trends/Corporate-governance-reform-hatches-business-opportunities

2015年