豊島逸夫の手帖

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独仏「仮面夫婦」に依存するユーロ

2015年8月7日

ユーロの信認が維持されるか。その鍵を握るのが、独仏枢軸。ドイツ・メルケル首相とフランス・オランド大統領の「仮面夫婦」関係だ。

特に、夫婦関係において妻の経済力が夫より優る場合には妻が気を使うもの。果たして、「同床異夢」ながら、仮面夫婦関係を維持できるか。

今回のギリシャ救済交渉の過程では、夫婦の亀裂があらわになった。

この不協和音は、ユーロを支える枢軸の揺らぎとして、大きな問題を残した、といえる。

具体的には、フランスは一貫してギリシャ応援団にまわり、事務レベルではギリシャ側からの「新構造改革案」作成を実際に手伝うまで深い入りした。あの新提案は、実質的にギリシャ・フランスの共同制作だったのだ。

最終段階で、17時間に及んだユーロ圏財務相会議が紛糾した過程でも、オランド大統領は常にドイツとギリシャの間に入り、調停役に徹した。

実は、あの長丁場が14時間目に入ったところで、まさに「ギリシャのユーロ離脱」寸前まで事態が切迫したという。強硬な態度をいささかも崩さないドイツ交渉団と、もうこれ以上は譲歩できないギリシャ交渉団が、それ以上の交渉を断念し会場から退出しかかったのだ。ショイブレ財務相が、ドラギECB総裁を公然としかりつける場面もあったという。

そこで、オランド大統領が慌ててメルケル首相とチプラス首相を別室に招き、ユンケルEU委員長を交え、退席を思いとどまらせるべく、説得したという。もし、あのまま、物別れに終わっていたら、ショイブレ財務相案の「5年間ユーロ離脱」が現実化していたであろう。

なぜ、フランスは、それほどギリシャ側の肩を持ったのか。

理由は二つ考えられる。

まず、経済力ではドイツに完全に水をあけられたフランスの存在感を外交面で誇示するために絶好の機会であったこと。

次に、「明日は我が身」との思いがあったこと。フランスの手厚い社会福祉そして年金支給は知られるところだが、これは将来的に巨額の債務と化すリスクをはらむ。

たとえば、筆者の知人で、日系大手企業に勤め、パリの現地法人にも3年ほど籍を置いた人物が60歳を越して、毎月フランス政府から1千ユーロ(約13万円)の年金が振り込まれるのだ。

このような大盤振る舞いこそ、ギリシャ経済危機をもたらした要因であろう。

筆者は、10年後、債務危機に陥る候補国リストのNO1がフランスと見ている。だから、「明日は我が身」と感じているのだと思う。

いっぽうのドイツの交渉態度は、過酷なまでに強硬であった。

その背景には、チプラス首相への強い不信感と、ギリシャに甘すぎるとの独選挙民の高まる世論があった。

そこで、ユーロの実質的盟主ともいえる国の財務相が、たとえ、素案にせよ、「一時的ユーロ離脱」を自ら提唱するまでに至った。この一件を機に、ドイツの容赦ない姿勢に対する批判が徐々に高まっていったことは間違いない。

とはいえ、ドイツ国内でも政治の都ベルリンと経済の都フランクフルトでは、かなり意見の温度差が見られることもたしかだ。

ユーロの経済的恩恵を最大限に受けた国が、ほかならぬドイツなのだから。

そこで、ベルリンでは「ギリシャ許すまじ」の機運が高まるが、フランクフルトでは「ギリシャ救済やむなし」の声が多い。

板挟みとなったメルケル首相は、最強硬派ショイブレ財務相をまず全面に出して、相手を威嚇したうえで、自らがしずしずと登場する交渉戦術で臨んだようだ。

それでも、弱者ギリシャを完膚なきまでに叩く、との印象は払しょくされなかった。

ドイツ側にしてみれば、巨額のカネを貸してやった挙句に、取り立て屋のごとき悪役よばわりされるのは、納得ゆかぬことであろう。

いっぽう、EU内では、「ドイツ主導の救済からドイツ支配への脅威」への懸念がつきまとう。

この仮面夫婦関係のきしみは、ユーロのきしみとなり、顕在化してゆきそうだ。

日経ヴェリタス 筆者コラム 逸's OK! の原文

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2015年