豊島逸夫の手帖

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ギリシャ2題

2015年2月23日

まず、2月21日土曜日の原稿↓

①ギリシャ救済暫定合意、ギリシャの粘り勝ちか

発表声明を精査して、その内容を吟味してみたい。

「ユーログループは、ギリシャのこれまで数年のめざましい努力を評価する。」
冒頭にまずギリシャへの好意的姿勢を強調。

「ユーログループは、現状の取り決めの範囲内で、ギリシャ救済プログラムの延長を留意する。この延長は、今後の取り決め交渉への時間つなぎとなろう。
ギリシャは現状の取り決めに基づき、構造改革の最初のリストを2月23日までに提出する。このリストの最初のリビューで十分と認められれば、全体交渉が継続される出発点となる。4月末が合意をめざす。」
最終合意のためには、ギリシャが、構造改革リストを提出というテストを受けねばならない。この内容次第ではギリシャ国内で強い抵抗が示される可能性もある。

「このリビューののち、現在の救済プログラムの残額がギリシャ側に供与される。あくまでユーログループの承認が条件となる。」

「ギリシャ政府は、経済性成長・雇用改善、金融セクター安定、社会的平等のために広範かつ深い構造改革へのコミットメントを表明した。同政府は、長らく懸案の腐敗・脱税への取り組みと公的部門の効率化をコミットする。」
ここの言い回しは微妙で、成長・平等を損なう構造改革についてはコミットしないとも読める。つまり、チプロス首相は、国内向けには、公約した、緊縮など痛みを伴う構造改革については約束していないと語れる。但し、腐敗・脱税に関しては、国民の理解も得られるので具体的に明記したと思われる。

「ギリシャは債権者への全額・期限内の債務履行を無条件でコミットする。」
「ギリシャは適度の財政プライマリーバランス黒字を確保することをコミットした。ユーログループ側は、2015年プライマリーバランス黒字目標につき、2015年の経済環境を考慮する。」
ここは、ユーログループ側が譲歩して、欧州経済が更に悪化すれば、財政改善目標は緩める余地を残した。

「ギリシャは、構造改革プログラムを一方的に変える、あるいは撤回することは控えることをコミットする。」
ここでは、チプロス首相の、勝手な議会での挑戦的発言を封じたといえる。

「現行ギリシャ救済プログラムの4ヵ月延長につき、ユーログループは各国内で承認のための手続きを開始する。
ギリシャが今回合意されたコミットメントを順守すれば、同国が市場復帰するまで、ギリシャへの適度の支援をユーログループはコミットした。」
最後に、今後の道程を確認している。

以上、総じて、ユーログループ側がギリシャに4ヵ月の執行猶予を与えたといえよう。
しかし、救済プログラムに付帯する厳しい条件は変わらない。ここに、ドイツの影響力が感じられる。
ドイツ国内向けには、条件は大筋緩めず、ギリシャのユーロ離脱という最悪の事態を回避した、との説明となろう。
ユーロの恩恵を最も受けてきたのが、ほかならぬドイツゆえ、ベルリンでは「ギリシャ許すまじ。」と選挙民へのスタンスを強調するが、フランクフルトの財界へ配慮した内容といえる。強気のショイブレ財務相と、国内選挙も視野に入るメルケル首相の間の微妙な温度差は残ったままである。

今後、チプロス首相は国内の世論をなだめるのに苦心するであろうが、最後は「返済したくても返済できない。」「ないものはない。」と開き直ることができる。借りた者の強みだ。貸した側のドイツが、ギリシャを切るか否かとの最も困難な選択を迫られることになろう。

 次に今朝23日の原稿。

②ギリシャ「暫定」合意は72時間

合意に達したかに見えたギリシャ救済交渉だが、週末に、早くもほころびが顕在化してきた。今週初めにも、ふりだしに戻る可能性がある。
最大の難関は、声明文の中のこの一節だ。
「ギリシャは構造改革の最初のリストを2月23日までに提出。これが認められれば、全体交渉継続される出発点となる。」
21日付けでも述べたが、当初から「このテスト次第ではギリシャ国内で強い抵抗が示される可能性」があった。
そして、週末には早くもギリシャ連合政権内から不協和音が顕在化した。
急進左派連合内部の強硬派は「現行の救済プログラムをキャンセル」との主張から一歩も引かない。
20日の暫定合意も、「肉を魚といいかえただけの、言葉の遊び。」と一蹴している。
72時間の期限内に、具体的目標数値を明示する改革案がまとまることは、ほぼ不可能に近い。おおまかな概要を示す程度になりそうだ。

これでは、EU/IMF/ECBの救済側が受け入れることはできない。
最大の問題点は、現行協定ではギリシャの2015年プライマリー・バランスを3%に抑えることが必須と明記されていること。しかし、この達成のためには、「債務削減」が必須となる。ところが、20日の声明文では、「経済情勢が悪化すれば再考慮の余地」をほのめかしつつ「ギリシャは債権者への全額・期限内の債務履行を無条件でコミットする。」ことが再度確認された。
そこで、ギリシャ側の希望的代案はプライマリー・バランス目標1.5%への引き下げだ。しかし、救済側は、現行プログラムに関して一切の変更を認めていない。あくまで「これまでの約束を果たせば、現行救済プログラムの継続に同意する。」との姿勢を貫いている。
特に、この問題は、ギリシャ債務のソルベンシー(債務返済能力問題)にかかわる根源的な部分ので、双方とも譲れないのだ。財政黒字が少なくなれば、その分、債務削減という債権者の負担が増えるは必定。
72時間以内に現実的妥協数値で双方が合意する可能性は極めて低い。
ここをあいまいにして、たとえば、「救済支援」を「融資」に、「債権者」を「パートナー」に、ギリシャ国内で敵視されているトロイカ(EU/ECB/IMF)を「3機関」に言い換えるなどの小手先の議論で自国選挙民をなだめようとしてきたが、これはその場しのぎの苦肉の策だ。

なお、流動性の点に関しては、ECBが「ELA(緊急流動性支援)」を認めているので、銀行取付けへの対応は設定されている。しかし、これとて、ギリシャが懲りない態度を続ければECBは直ちにこの生命線を断つだろう。依然、預金引き出しは加速しており、資本規制が視野に入る。
結局、ギリシャ側は最終交渉決裂という最悪の事態を72時間回避したに過ぎない。

いっぽう、ドイツはこれまでの主張はほとんど変えなかった。国内世論には「また先送りはうんざり」感が漂う。回復しつつある経済、そして金融安全網を背景に「もはやギリシャを切っても心理的動揺が終息すれば、ユーロは立ち直る。」との見方が広がりつつある。
元祖欧州文明とのプライドが高いギリシャ側も「理論的にはドラクマに戻れば、ハイパーインフレ必至だが、これ以上、ドイツの債務植民地化は耐えられない。」とユーロ離脱やむなしの論調も目立つ。
追い詰められた国は経済合理性に欠ける行動に走りがちだ。
足元では、20日が9回裏とすれば、72時間の延長戦入り、といえよう。
市場は、「ギリシャ合意」の安堵相場に入り、イエレン議会証言に注目が移っているだけに、ちゃぶ台返しがあった場合のサプライズ感が強まる地合いになっている。

次の今朝の日経。「伝統的指標、景気とズレ」の記事で、「新入社員にひとつ薦めるとすれば、どの経済指標?」のアンケート調査結果。

◎エコノミストらが選ぶ、経済がわかる「この指標」
■氏名
□指標
□ポイント

■池田雄之輔・野村証券チーフ為替ストラテジスト
□米時間あたり賃金
□米利上げ時期をめぐる重要指標。市場への影響大。

■菅野雅明・JPモルガン証券チーフエコノミスト
□PMI
□グローバル経済の動向がわかる。速報性も高い。

■小峰隆夫・法政大教授
□ESPフォーキャスト
□民間予測をもとに今後の景気が読める。

■嶋中雄二・三菱UFJモルガン・スタンレー証券景気循環研究所長
□OECD景気先行指数
□主要各国の景気動向が一目でわかる。

■新家義貴・第一生命経済研究所主席エコノミスト
□景気動向指数
□今景気がどの方向を向いているかが良くわかる。

■高田創・みずほ総合研究所チーフエコノミスト
□鉱工業生産指数
□日本の景気を理解する上での基盤。

■宅森昭吉・三井住友アセットマネジメントチーフエコノミスト
□景気ウオッチャー調査
□判断理由を読むことで景気が実感的にわかる。

■豊島逸夫マーケットアナリスト
□経常収支
□日本企業の「稼ぐ力」がわかり、中長期的な円相場も見える。

そして、今週は火曜水曜とテレビ生出演2本。
まず、明日火曜のBSジャパン(これは日本中どこでも見られる)午後10時からの日経プラス10、1時間番組の後半30分ほど。テーマは、どうなるギリシャ。
番組HP。24日の部分。↓

http://www.bs-j.co.jp/plus10/

そして毎月恒例。日経CNBCニュースコア・ワイド30分拡大版。2月25日午後9時から。
世界のマネーはどこに行く。25日OA↓

http://www.nikkei-cnbc.co.jp/program/newscore/

ちなみに、12月、1月出演時の恒例ドル円・日経平均予想グラフ(なんと無謀な、 笑)を添付。為替はここまでおおむね当たっているが、日経平均は12月に上方修正して1月も維持したが、現状では、まだそこまで上がっていない。これらについて謙虚に(?)「反省会セッション」もやります!

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金価格も円建て金価格上昇で急に取材が増えた。
これから、色々な朝日、読売など色々な一般媒体に金対談が載ります。
というわけで、意に反して、週末も仕事・打ち合わせに追われていました。

写真は、リフレッシュのため散歩に行った、池上梅園。そして、見つけた、ふきのとう。味噌とあえて、すりつぶして、熱いご飯と食べると、独特の苦みが新鮮だね~。スキー場は、ぼちぼち春スキーモードかな。

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2015年