2015年3月19日
「筆者の予想によると、FOMCの利上げ戦術は、patientの単語は外すが、FRB経済予測のほうで、株式市場の不安を鎮める、という合わせ技である。その場合、ドル円も円高に振れる可能性があり、日本株と円相場のディカプリング(非連動)が試されることになる。」
17日付け本欄「米利上げ、イエレン氏が狙う合わせ技とは」でこう書いた筆者にサプライズはない。今回発表FRB経済予測の中で、FFレート(政策金利)予測は以下の通り引き下げられた。
ここでは2017年について比較するが、2015、2016年についても、予測値は下落している。
FOMC参加者による2017年 予測金利(FFレート)分布
前回 | 今回 | |
2.000% | 1 (名) | 1 (名) |
2.625% | 1 | 3 |
2.875% | 1 | 2 |
3.125% | 2 | 4 |
3.375% | 2 | 1 |
3.625% | 2 | 2 |
3.750% | 3 | 2 |
3.875% | 1 | 1 |
4.000% | 1 | 1 |
4.125% | 1 | 0 |
4.250% | 2 | 0 |
この比較から、今回の利上げサイクルの落としどころが、前回(2014年12月)の3.5%~4.25%のレンジから、2.625%~3.75%のレンジに下落したことが読み取れる。FFレート先物市場が示す、民間市場予測に近づいたとも言えよう。やはり、3年程度かけて0.00~0.25%の現行レンジから3%前後まで慎重なペースで上げてゆく、という史上例を見ない低水準でスローペースの「市場にやさしい」利上げとなりそうだ。0.125%刻みの利上げさえ考えられる。
長期マネーの立場では「利上げ、恐るるに足らず」。株式市場にとっては、追い風だ。
債券市場では米10年債利回りが再び2%以下の水準に下がった。外為市場では、ドル急落。売られ続けてきたユーロは急反騰。円高も進行して、日本株にとっては、上げがホンモノか、試される状況になった。
NYの商品市場では、金プラチナが急反発。但し、円高で円建ては相殺される展開。
なお、短期マネーにとって気がかりな利上げ開始時期に関しては、FOMCの自由度を残し、経済データ次第で柔軟に対応できる言い回しに終始した。patient(忍耐強い)は外したが、impatient(忍耐強くない)ではないと述べるなど、禅問答のような言い回しだ。確かなことは、4月の利上げはない、ということ。インフレ率が2%方向に定着するのを待つ姿勢を強調しているので、やはりドル高・原油安の物価押し下げ効果を見守っていることがうかがえる。
そのドル高は、世界的金融緩和の波に米国だけ逆行して利上げに動くという金融政策要因に基づくので、長期トレンドを見れば容易に解消されないだろう。
原油安も、シェール・OPECの価格調整役放棄などのパラダイム・シフトによるので、単に投機マネーの「一時的」影響として片づけられない。
FOMCがインフレ期待上昇に自信を持てる状況になるのは、2016年にずれこむ可能性さえ考えられる。
前FRB議長バーナンキ氏は、退任後のスピーチで、「私の人生が終わるまで、金利が4%に戻ることはなさそう。」と語ったと伝えられる。
総じて、利上げ開始時期にかかわらず、低金利の緩和状況が続きそうだ。貴金属・株などのリスク資産にマネーが向かう市場環境も継続することになろう。