豊島逸夫の手帖

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原油は底打ちしたか

2015年2月4日

原油先物価格(WTI)は、1月30日と2月3日の両日、それぞれ7-8%の反騰を演じた。一時43ドル台に沈んだが、53-54ドルまで戻してきた。
いよいよ、原油暴落も底打ちか。
3日のNY市場は株式も含め、この話題でもちきり。

これほどの急騰・急落が起こるのは、OPECが市場調整役を放棄したからだ。原油価格が市場における価格形成に委ねられることになった。これ即ち、OPECに代わり、投機家が価格リード役となったことを意味する。
そこでは、中国・欧州の需要減退とかシェールガス・生産コスト、中東産油国の財政均衡価格などのファンダメンタルズ要因は「後講釈材料」として扱われ、投機家の思惑が先物取引所を席巻する。

では、このような市場環境の中で、「底打ちか否か」見極めるには、どうすればよいのか。
迷えば、相場に聞け、といわれるとおり、前回(2008年)原油価格が30ドル台まで暴落したときの状況を精査してみよう。

このときの原油下落は、もちろんリーマンショックに発する。
2008年7月3日に145ドルをつけていた原油先物価格は、9月15日に100ドル割れ。あとは、つるべ落としで、同12月23日には30ドルギリギリの大底をつけた。
今回参考になるのは、その後の回復過程だ。
12月31日には44ドル。その後、3ヶ月をかけ2009年3月9日に50ドル超え、5月20日には60ドル超え、そして10月21日には80ドルまで戻した。
その間、約10ヶ月。
その後、「余震」を繰り返しつつ、多少なりとも安定気味に推移するようになるまで2年はかかっている。
今回は、まだ43ドルが54ドルまで戻した段階。

100ドル台から40ドル台までの急落過程では、CTA(コモディティー・トレーディング・アドバイザー)というファンドが主役であった。ヘッジファンドの一種だが、トレンド・フォロー。大相場で徹底的に(下げ相場では)売りの波に乗り、売りの波状攻撃をかける。今回原油下落で最大の儲けを得たファンド群だ。
しかし、40ドル台ともなり、さすがにトレンド・フォローの動きは鎮静化した。
代わって、細かな値幅取りの投機的売買が勢いを得る。
ここからは日常的な乱高下を繰り返し、徐々にレンジを切り上げることになろう。その過程では、まだ瞬間的40ドル割れの可能性も否定できない。しかし、先物市場にはまだ売りポジションが残っているので、これから、大筋買戻しの流れとなる。そこに新規買いが徐々に入ってくる。
年内は、徐々にレンジを切り上げてゆくことになろう。とはいえ40ドル-60ドルの間でかなり荒っぽい展開となりそうだ。特に、前回と異なり、アルゴリズム取引、高速度取引が市場を牛耳っているので、短期的には5ドル、10ドル幅の上げ下げが常態化する市場が想定される。

なお、2年後の落としどころとしては、70ドル前後が考えられる。
さすがに100ドルの時代は戻らないだろう。
長期トレンドを決めるのは、やはり需給ファンダメンタルズとマクロ経済。
OPECのタガが外れ、シェールという新たな供給源が価格変動リスクにさらされ、中国・欧州などの消費国では景況感が揺れる。原油市場にパラダイムシフトが起こっているときに、100ドルは高すぎるが、40ドルは安すぎる。
投機家心理としては、ここから更に空売り攻勢をかけるのは、さすがに「気持ち悪い」。
安値の目途がおぼろげながら識別できる段階に達したといえよう。

なお、原油ユーザーは価格の安定化を望むが、レンジ内での値動きは極めて不安定な状況が続く。前回と異なり、原油オプション市場が発達したので、NY先物市場では、オプションによるヘッジが主流になっている。筆者が、昨年2回NYMEXを訪問したときも、原油オプションのピット(立会場)に熱気が感じられた。
しかし、NYMEXでも、フロアートレーダーたちは、常にアルゴリズム画面への目配りを欠かさない。
「我々は、コンピューターの発達で、用無しになってゆくだろう。」
筆者と一緒にピットで働いていた後輩の言葉が印象に残った。

金価格はギリシャ不安が若干緩んだことで売られ1260ドル台。
逆にプラチナは欧州不安緩和となると買われ1240ドル前後。
金プラチナ値差は徐々に縮小。

NYMEX原油オプション・ピット (筆者撮影)

2047a.jpgピットの周りの各社ブースに備えられた、アルゴリズム取引画面 (筆者撮影)

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2015年