豊島逸夫の手帖

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モノもマネーも中国離れ

2015年9月8日

今の日中経済を象徴するような一日だった。

日本の4~6月実質GDP改定値は前年比年率1.2%減に上方修正されたが、その内訳は芳しくない。モノが売れ残り在庫が積み上がった結果、GDPが押し上げられているからだ。設備投資は下方修正だ。

8月の景気ウォッチャー調査も、現状判断指数49.3、先行き判断指数48.2と悪化が続く。しかも、先行きのほうが現状を下回っている。危うしアベノミクス。失敗に備えたヘッジも必要になってきた。

いっぽう、最大の貿易相手国中国の8月貿易統計では、輸入額が前年同月比13.8%減で、市場予想の7.9%減よりかなり下振れした。天津爆発事故や9月3日軍事パレードに向けての工場一時閉鎖という特殊要因もあるが、今のマーケット環境では、印象度が悪い。

外為市場では朝方一時119.50円台まで円安が進行したが、中国貿易統計発表後、円高に転じた。

日経平均も午前中は買いが先行して一時1万8000円台に迫ったが、その後、下げに転じた。上海株も下げに歯止めがかからない。

俯瞰して、中国のモノの流れを見れば、これまで中国製品を買ってくれていた国の購買力が、中国経済減速の影響で落ち込んでいる。輸出での儲けが減ると、未だ消費主導型経済への道半ば、否、遠しの過渡期ゆえ、輸入が減る。かくして、輸出も輸入も減少するなかで、マクロ経済の縮小均衡点を模索している様相だ。その模索の過程には、ハードランディングのリスクも見え隠れする。

いっぽう、マネーの流れを見るに、8月には外貨準備高が939億ドルも急減した。過去最大の減少幅だ。マネーの中国離れという資本逃避が加速している。

その背景が、輸出を増やす目的と思われる人民元切り下げ。市場へショックが激しすぎて、人民元対ドルレートの下げの勢いが止まらなくなってしまった。放置すれば、マネーの中国離れが制御不能になってしまう。そこで、人民銀行は一転、人民元買いの市場介入を強いられ、その反対取引として、米ドルを売らざるを得なくなった。3兆5573億ドル(約423兆円)に達する外貨準備で保有しているドルを切り崩して売る羽目になったのだ。

但し、外貨準備として保有しているドルはドル札ではなく米国債だ。そこで、世界的市況波乱の中で、安全資産として人気の高い米国債の売り手にはからずも廻る巡り合わせになった。

但し、過去最大幅で減少しても、中国の外貨準備はダントツの世界一だ。まだまだ余裕を残す。しかも、縮小均衡とはいえ、経常黒字国である。他の新興国と異なり、未だ、経済ショックの衝撃を和らげるバッファー(緩衝材)は充分にある。

このバッファーで経済のハードランディングを回避しつつ、消費を増やし輸入が増えるように経済を誘導できるか。中国指導部の経済運営綱渡りは続く。

2015年