豊島逸夫の手帖

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貴金属急落

2015年1月30日

FOMC声明文が発表された時刻は、28日NY市場引け前だった。
そこで、注目されたのは、29日の欧米市場でいかに消化されるか。

まず、欧州市場では、ギリシャのユーロ離脱危機が再燃するなかで、果たして利上げ出来るのか、という議論が目立った。新たな懸念材料は、チプラス新政権が、親ロシアの外交姿勢を鮮明に打ち出し、欧米のロシア制裁に反対のスタンスをちらつかせ始めたことだ。EUのロシア制裁は、加盟国全員一致による決定が原則なので、ギリシャは事実上拒否権を持つことになる。そこで、ウクライナ問題を利用して、EUとの債務再削減交渉を有利に進めようとの思惑が透ける。しかし、ここは、EUも絶対譲れないところだ。チプラス首相は、ユーロ離脱せずと語っているが、言動は一致しない。(本欄28日付け「ギリシャに接近するロシア」参照)
そこで、FOMC声明文に新たに盛り込まれたインターナショナルの一言が利上げ判断には国際情勢にも配慮と解釈され、注目されるわけだ。

次に、NY市場では、原油価格(WTI先物)が一時43ドル台まで急落後、44ドル台まで戻して引けた。ドルインデックスも94から95の高値レンジで乱高下を続けている。原油市場にパラダイムシフトが起こっているときに、原油安を「一時的」と片づけられるのか。ドル高についてFOMC声明文に言及がなかったことも、物価引下げ効果があるので、意図的に触れなかったのでは、などの深読み説が流れる。

シカゴ・マーカンタイル取引所のFFレート先物、2015年6月ものもFOMC前と変わらず0.165%。前回FOMC開催12月の0.21%台に比し、予想金利は明らかに下がっている。米10年債利回りも1.7%台の低水準で推移。インフレ期待が高まる兆しは見えない。
結局、市場とFRBのギャップは埋まらず。(29日付け日経コラム、「揺れる米利上げ予測、FRBと市場に温度差」参照。)

この「温度差」に関しては、市場の一部が「利上げ先送り観測」に前のめりになり始めたところで、強気の声明文で牽制したとも見られる。利上げ開始時期決定に関して、出来る限り政策自由度を残したいとのイエレン議長の思いが声明文ににじむ。
ひとつだけ確かなことは、利上げの機が熟するのを「忍耐強く」待つというpatientの一言で、6月のFOMCまで利上げはなし、との執行猶予を市場が得たことだろう。
2月から6月までまだ5か月。判決が出るまで、市場は利上げ観測に揺れる。その間、ボラティリティーは高まり、ヘッジファンドなど短期投機筋にとっては、市場を揺さぶる願ってもない地合いになる。日本株では日経平均先物がヘッジファンド空中戦の場になりそうだ。ドル円相場も三角持合いになってきたが、日中の変動幅が1円を超える日も珍しくない。2月に入ると、欧州関連の材料が陳腐化してユーロ売りもピークを迎え、次の通貨として円に焦点が移る可能性もある。目先は日銀追加緩和も期待できず円高のバイアスが強いので115円前後まで円が買われ、その後、再び日米金融政策方向性の差が重視され円売り再開とのシナリオも考えられる。
執行猶予期間中の市場は、短期売買が席巻することから生じる乱気流に身構えている。

貴金属市場は、強気のFOMC声明文に利上げを先読みして、売られた。6月利上げが水平線上に見えるだけで、金利を生まない金は売られる。利上げは金にとって天敵なのだ。
1300ドルでは「底値圏とはいえず、金に割高感」と書いてきたが、1250ドル台まで下がり、そろそろ底値圏に再接近というところ。
でも、まだ底値圏到達とは言えない。

それから、英語の勉強したい人は、下記の筆者英文原稿を読んでみて。
http://asia.nikkei.com/Markets/Currencies/Is-China-partaking-in-competitive-currency-devaluation

http://asia.nikkei.com/Politics-Economy/Economy/Market-skeptical-of-Fed-rates-hike-in-June

Nikkei Asian Review Itsuo Toshimaで検索すると、ドッサリ出るよ。

2015年