豊島逸夫の手帖

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暴れるオイルマネー

2015年2月3日

原油急落に窮した産油国のSWF(政府系ファンド)が新年早々、市場を荒らせている。株価・ドル円の24時間チャートを見ていると、ところどころに、心電図の如く突出あるいは陥没したような部分がある。これは、通常フラッシュ・トレードと呼ばれ、高頻度取引を駆使するプロップハウス(自己勘定で売買する独立系のトレーディング・ハウス)の仕業だ。大手投資銀行のトレーディング部門が、ドッドフランク法(金融改革法)の影響で、自己勘定売買を規制され、縮小・閉鎖に動くなか、相対的に存在感を高めている。

しかし、原油価格下落が加速してから、とても民間のマネーでは取りえない規模の売買を仕掛けてくる投機筋の動きが目立つようになった。サッカーに例えれば、圧倒的なパワープレーで押してくるのだ。チームジャパンのごとくこまめなパスワークで攻める大手投資銀行のトレーディングとの対比が鮮明だ。
その売り買い本尊が、中東産油国のSWF。
原油輸出収入の激減により、蓄積した富の取り崩しを強いられている。
具体的には、サウジアラビア通貨庁、クエート通貨庁、カタール通貨庁、そしてアブダビ投資庁が、産油国SWFあるいは「オイルマネー」としてしばしば名前があがる。
彼らの運用方針の根幹は長期投資だ。
特に、不動産・インフラ関連のポートフォリオが現象的に確認できる。カタールのマネーがロンドンのハロッズ百貨店を買ったときなどは、一般紙の話題にもなった。

しかし、なかには、短期トレーディングでアクティブ運用収益の最大化を計る国もある。最近では、減るいっぽうの原油輸出収入の埋め合わせに、投機的売買攻勢で市場を揺らせる手段を選択しているのだ。
その売買手法はスイープ(箒)と呼ばれる。
場に出ているオファー(売り唱え)やビッド(買い唱え)を「箒で掃く」ごとく、すべてさらってしまう。とても、民間のディーラーが許されるポジションの規模ではない。
筆者が、昨年11月、旧知のNYの金融機関のトレーディングルームを訪問しているとき、その現場にたまたま居合わせたことがある。
全てが電算化された今のトレーディングルームには昔のような喧騒感がない。しかし、その日、その時、大きな部屋全体が、静かな地響きのような、ウーーというトレーダーたちのうめきに包まれた。
「old ladyのお出ましだ」との隠語が飛び交う。
彼らが知りたいのは、old ladyが、ロング(買い)かショート(売り)か。自分たちと同じ方向のポジションであれば、「たなぼた」となるが、逆サイドで来られると、瞬時に「蛇の生殺し」状況に陥り、真っ青になる。
巨額の売買がワン・サイドに集中するので、値がつかず、アルゴリズム・モニター画面が負荷でブラックアウトすることさえある。
画面のフリーズ状態が解除された3分後には、たとえば、円相場が50銭動いた後だったりする。

この産油国系投機集団の実態は、ガイジン助っ人部隊だ。
ウオール街で働いていたが、ドッドフランク法によりトレーディング部門縮小でクビになった連中が、リクルートされている。
通常2-3年契約の出稼ぎだが、報酬が凄い。
ただでさえウオール街のトレーダーは高給取りだが、それより桁が一桁多い。
家族はイスラム戒律の厳しい中東暮らしを敬遠するので、大概は単身赴任。筆者の友人には、「3年働けば、あと一生、楽に暮らせる」と割り切っている輩もいる。
コンプライアンスとかポジション規制とは無縁の世界で、リスクをめいっぱい取れるので、高揚感に溢れている。
「実はヘッジファンドからもお誘いがあったが、年金基金のヘッジファンド外しで、かなりキビシイ。だから、中東系を選んだ」と語る向きもいる。

ちなみに、金の世界では、昔から中東系のトレーダーたちが幅をきかせてきた。かれらは独自の情報網を持っており、イラク開戦時にもいち早く察し、粛々と先物買いポジションを増やし、開戦とともに一斉に利益確定の売りに出た。外電のインタビューには「有事の金は買いですよ」と語り、自らは「売り手じまい」に走るしたたかさを見せつけられた。
今では、株式・債券・外為・商品の各市場で、そのしたたかさをガイジン部隊経由で見せつけている。
市場のマーケット・メーカーが減り、リスク回避が構造的に常態化しつつあるなかで、一部産油国ファンドの動きから目を離せない。
(この原稿が編集され日経ヴェリタス「逸's OK!」に掲載。)

産油国マネーという意味では、ロシアが欧米からの制裁に窮して、金売却に走るかも、という噂も流れます。まぁ、あり得ないことではないですね。

今日の写真は、私のハンドキャリー3点セット。

2046.jpgいずれも、特製のネクタイ生地から作られたレアもの。
上品で使い勝手も良い。大き目のバッグには丁度タブレットが入る。その他、もろもろを、あと二つの小物入れにまとめる。しょっちゅう忘れ物をしてるので、これでだいぶ整理できました。ありがたや~。

2015年