豊島逸夫の手帖

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雇用統計後、利上げ2016年説も浮上

2015年7月3日

「悪くはない。かといって、利上げを正当化するには力不足。」

6月米雇用統計の一般的評価だ。

非農業部門新規雇用者数22万3千人増は、事前予測には若干及ばぬものの、20万人の大台を下回るようなサプライズはなかった。しかし、5月分の増加が28万人から25万4千人に、4月分も22万1千人から18万7千人に下方修正された。これは、サプライズである。

更に、雇用統計の質の部分で最も注目される平均時給が24.95ドルと前年同期24.46ドルに比し2%増にとどまった。相変わらず、賃金の伸びは鈍い。

そして、労働参加率も、62.9%(5月)から62.6%に低下した。失業率も5.3%に低下。求職をあきらめて労働市場から脱落して「非参加」となった人が増えれば労働参加率は低下する。いっぽう、その脱落組は「求職活動をしていない」という理由で統計上は失業者とみなされないので、失業率は下がる構図は変わらない。ちなみに、6月の労働市場参加者総数は5月の1億5746万9千人から1億5703万7千人に減少している。労働市場からの脱落者の実数は43万2千人に登り、非農業部門新規雇用者数の倍近い規模だ。

更に実数ベースで見れば、就職したいのに職が見つからない人は829万9千人。正規雇用を望んでいるのにパートタイムに甘んじている人は650万5千人。リーマンショックから6年経過しても、労働市場の実態は厳しい。月々の変化を追っているだけでは失業問題を実像が見えてこない。労働経済の専門家であるイエレン氏の視点では、利上げには慎重にならざるを得ないのであろう。

とはいえ、これらの実数が本格的に改善傾向になってから利上げをするのでは、遅きに失し、超金融緩和を続けすぎたことに由来するバブルを招きかねない。

結局、利上げの最終決定は、実体経済の追認ではなく、経済予測に基づく判断となる。そこに求められる資質は、エコノミストとしての分析能力ではなく、経営者的意思決定能力だ。

ただし、このコーポレート・アメリカの会計責任者は、そもそも伝統的中央銀行家でもある。金融節度が問われかねない「ゼロ金利」という危うい政策からは一日も早く脱却したい、との思いは強いはずだ。正統派の中央銀行家の矜持とでもいえようか。量的緩和というバブルの香り漂う非伝統的金融政策をやっと終了したところで、次はゼロ金利からの脱却。そして、量的緩和の後始末ともいえる「出口戦略」の目途をつけることがイエレン氏の役回りなのだ。リーマンショック後のFRB議長には、まずはデフレ・ファイターとしての結果を出すことが求められた。とはいえ、本来のインフレ・ファイターとしての気持ちを忘れたわけではないことも示しておきたいところであろう。

とはいえ、FRBが重視するインフレ率は、依然、長期安定目標の2%を下回った状態が続いている。「長期経済停滞論」は依然くすぶる。年内、インフレ率が2%に向けて本格上昇を開始する兆しが顕在化するであろうか。

結局、年内一回は利上げして、インフレ・ファイターとしての矜持を示し、あとはデフレ・ファイターとしての配慮を怠らず、「データ次第」で緩やかなペースの利上げを粛々と実行してゆくことになりそうだ。

12月に1回、鳴り物入りで利上げ開始を宣言し、2016年に入ってからは、しばらく様子見、というシナリオが浮かぶ。

6月のFOMC開催時に発表されたFRB経済予測の中で、最も注目されるドット・チャート(FOMC参加者のFF金利予測の分布図)を見ると、2015年利上げ予測が大きく割れていた。年内利上げ一回、2回、3回予測がそれぞれ5人ずつという分布状況だ。詳しくは本欄6月18日付け「史上例を見ない低水準・低速度の利上げへ」を参照されたい。

そこで、イエレン議長のドット(点)は、どれか、ということが、ウォール街では話題になった。ハト派のイエレン氏が2回派、3回派とかは考えにくいので、1回派であろうとの推測が優勢であった。

その推測を6月雇用統計は、裏付けした感がある。

他のFOMC参加者も、おそらく、1回派が増えているのではないか。

ギリシャ混迷、上海株バブルの二大リスクを考慮すれば、0回派(2016年に先送り)が現れても不思議ではない。

なお、筆者は、昨年末から「2015年の利上げなし」との論を展開してきたので、本稿には、そのバイアスがかかっていることを付記しておく。

最後に、ギリシャ国民投票の票読みだが、最新の調査では、YES(債権団からの改革案を受けいれる)が47%、NOが43%とかなり接近してきた。

市民の間では危機感が加速度的に高まりつつある。今やギリシャ金融システムの生命線となったECB(欧州中央銀行)からのELA(緊急流動性支援)を増額しないと、銀行休業が数週間から、場合によっては、数か月の可能性さえ考えられる。海外送金禁止の資本規制の影響もジワリ拡大している。輸入品依存度が高い生活ゆえ、基礎的物資買いだめ、ガソリンスタンドに行列などの現象が顕在化し始めた。危機感を高める市民が、緊縮案を受け入れて金融支援再開を望むYESに動くのか。あるいは、NOに票を投じ、あくまで緊縮は拒否しつつ、ドラクマでもいいから自由に現金引き出し・送金が出来るような生活に戻るのか。現地の専門家たちに聞いても、「読めない」の答えばかりである。市場としては、過半数がNOに投票した場合が、株急落・円高進行のリスクを警戒せねばならないケースになる。

さて、明日朝はABC朝日放送、情報番組「正義のミカタ」にまた生出演。ギリシャ問題について大阪弁で(笑)20分ほど語ります。関西地区だけどね。

You Tubeでも流れるでしょう。

今回も台本は、コテコテの大阪弁。

ギリシャがユーロ圏に入った時。

ギリシャ「ドイツに頼まれたから入ったった。」

ドイツ「ギリシャが入りたいゆうから入れたった。」

てな感じ。

関西弁のほうが、ノリがいいから好きだな。自分の語り口にも合ってるような気がする。まぁ、えせ関西弁やけど()

90分生放送だけど、午前には終わるから、昼は法善寺横丁で串揚げ、お好み焼き、夫婦善哉のフルコースや♪

それにしても、心斎橋の雑踏(写真)は、ハンパないね。中国人が多いこと、多いこと。

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2015年