豊島逸夫の手帖

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ユーロ離脱後のギリシャを狙う中ロの戦略

2015年5月18日

もし、ギリシャがEUと決別すれば、どこの経済圏に入るか。

当然、ロシア・中国が食指を動かせている。

とはいえ、ロシアに、ギリシャ支援の資金的余裕があるとも思えぬ。そこで、現地紙によると、プーチン大統領は、「BRICS開発銀行」(NDB)への参加を提唱しているようだ。AIIB(アジアインフラ投資銀行)と平行的に設立準備が進んでいる、新興国中心の国際金融機関だ。ロシア・中国などBRICS5ヶ国が100億ドルずつ出資して、本部を上海に置く予定となっている。

まだ、設立準備中ゆえ、足元のギリシャ救済には間に合わないが、ユーロ離脱後に、同銀行の傘下に入る可能性はある。

いっぽう、中国は、新シルクロード(一帯一路)プロジェクトの最終目的地候補のひとつとしてギリシャを意識しているように思える。既に、中国遠洋公司(COSCO)がアテネ近郊のピレウス港の港湾設備を買収。同港には、青色の中国系クレーンなど港湾機材が目立つ。地元住民の反発を考慮して、中国語表示は避け、色で識別している。更に、港権益の入札に参加の意向だ。

いっぽう、ロシアは、欧州への新天然ガスパイプラインをギリシャ経由で建設する計画をちらつかせる。ウクライナを通さないサウス・ストリーム(南廻り)のパイプラインは、当初、ブルガリア経由で計画されたが、EUのブルガリアへの圧力で頓挫した経緯がある。そこで、チプラス・ギリシャ首相はギリシャ誘致を進めている。国内で雇用を生み、通過料収入も見込めるからだ。

ギリシャの若者は、この動きを察知したかのように、第二外国語でロシア語・中国語選択が増えている。

ギリシャの最大の資産価値は、バルカン半島先端という地政学的ロケーションであろう。

ロシアにとっては、クリミア黒海艦隊の地中海進出基地となりうる。

中国にとっては、新シルクロードの終着地として恰好の国だ。

従って、NATO(北大西洋条約機構)としては許容しがたい展開となる可能性を秘める。

ギリシャ問題は、債務危機として、EU・ECB・IMFのいわゆるトロイカの存在ばかりが前面に出るが、NATOの反応も重要な要因だ。

仮にトロイカがギリシャのユーロ離脱を放置しても、NATOが容認しないだろう。

チプラス首相も、この潜在的不協和音を見通し、妥協を迫る。

なお、ギリシャ債務返済問題は、時間との闘いになってきた。

救済交渉延長期限6月末までの6週間で、現行の第二次救済スキームの残額融資再開と、7~8月以降に迫る大量国債償還に不可欠な第三次救済スキームを合意し、かつ、ドイツなどの国会承認を得るのはほぼ不可能に近い。

ギリシャ現政権内部での亀裂も目立ち、決められないチプラス首相は、国民投票によりユーロ離脱につき国民の判断を求めざるを得ないのではないか。

世論調査では、国民の大半がユーロ離脱を望まずとされているが、いざユーロにとどまる代償が年金3~4割カットなどとなると、感情が理性を上回る結果が出やすい。

ギリシャ問題の南欧諸国への伝染は防げても、ユーロ結束への信認が揺らぐことは間違いない。

地政学的問題も含め、方程式でいえば、「解不能」の様相が強まっている。

6月以降のギリシャ波乱は避けがたい。

青色の中国系港湾施設が目立つピレウス港

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「時間との闘い」という見出しの現地紙

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週末行った裏磐梯ボナリ高原ゴルフクラブ。

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磐梯山と安達太良山の間にある。

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日経プラスワン(土曜日の別刷り)の人気ゴルフ場ランキングで東日本第二位に入った。雄大な景色。

2015年