豊島逸夫の手帖

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原油急落で大儲けしたのは

2015年12月22日

原油安は世界的市場心理悪化を醸成したが、いっぽうで、ヘッジファンドは笑いが止まらない。40ドル台半ばから空売りポジションを増やしてきたからだ。しかも、レバレッジがたっぷりかかっている。今週、利益確定の買戻しに動いたファンドも、39ドル台では新規売りを仕掛けている。相場のモメンタムに乗り、空売り攻勢で連戦連勝だ。

実は、この原油急落は、彼らにとって思わぬクリスマスプレゼントだった。干天の慈雨ともいえる。

というのは、今年の運用実績は、7~9月の世界株安連鎖ショックのあおりをまともに受け、それまでプラスだったところが、軒並みマイナスに沈んだ。会員投資家たちの解約も目立ち、米国最大の年金カルパースからは、ヘッジファンドを運用対象から外すとまで通告されていた。

そこにECB追加緩和という、おあつらえ向きの材料が飛び出し、一斉にユーロ売りに走った。ところが、量的上乗せ無しという結果に、失望感からユーロ買いが急激に進んだ。そこで、出遅れたファンドも多く、せっかくの収益機会を利益確定できず、ユーロ・トレードを手仕舞ったところも少なくない。

そこに、降って湧いたような原油40ドル割れ。

既に40ドル台半ばでの空売りポジションを保有しているファンドは、更に空売りの積み増し。かと思えば、新規に原油空売りトレードに参入したファンドもある。

ユーロと異なり、目先、原油買い要因は少ない。だから、買戻しで反騰しても、更に売りを仕掛けられる。いわゆる売買回転が効いているという状況だ。

この千載一遇ともいえるチャンスに、これまでの失地回復を賭けている。

ただ、死角もある。

100ドル台から30ドル台までほぼ一直線に空売っては下がったところで買戻しを繰り返してきたわけだが、どこかで臨界点を迎えるは必定。

その時、市場にマグマのごとく蓄積したショート・ポジションの巻き戻しという大噴火が生じる。

筆者の経験だと、OPEC減産不合意など特段の材料もないときに、いきなり3~4ドル幅で、短時間に続落するような局面が、その臨界点の前ぶれとなりうる。

但し、2016年前半だと、そこで40ドル台を回復しても、50ドル台はなさそうだ。

今の原油相場は投機で動いている。そもそも、100ドル台のモノが短期間に30ドル台になるような現象を需給で説明しても、後講釈になるだけで虚しい。OPECが価格調整役を自ら放棄したことは、「市場原理に委ねられた」といわれるが、それは、投機筋が価格支配力を持つ相場になったということだ。

ただ、その投機筋には二つの弱みがある。

まず、原油現物を保有していないのに、先物決済期日には、現物受け渡しを確約していること。

次に、会員への分配金支払いのため、決算期があること。それまでに結果を出さねばならない。しかし、相場は、お構いなしで、容赦なく変動する。

高校野球のごとく、9回裏ツーアウトから大逆転をくらうこともある。決算前夜だと、それでサヨナラ負けとなる。

いっぽう、欧米年金基金のような長期マネーは、原油急落=期待インフレ率低下により、米利上げ判断に与える影響に注目する。

12月FOMCで利上げが決まったが、2回目以降に関しては、これまでの予想以上に、間が空く可能性がある。例えば、次は16年6月という見方だ。

日経ヴェリタス「豊島逸夫の逸's OK!」より。

アップデートして再録。

原油は、まだ売り圧力強いが、いずれ転換点が来る。一方、原油安にもかかわらず、金・プラチナは上昇。

同じコモディティーでも、値動きがばらついてきた。そろそろ転換点近く、まだら模様になってきたことの兆しか。

今月号のダイヤモンド・ザイに、金についてと、プラチナについての記事二本あり。

今日の写真は、大阪ウエスティンホテルのハイティー。和風スイーツセット。

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2015年