豊島逸夫の手帖

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金とマイナンバー制度

2015年8月18日

以下、昨日、日経電子版に掲載された記事の主要な部分です。

2016年から始まる社会保障と税の共通番号(マイナンバー)制度が国内の金業界でにわかに話題になっている。マイナンバーは預貯金口座へも任意で適用される方針。このため、現物資産である金も対象になるのではとの見方が金保有者の間で広がり、貴金属店の窓口で質問をする顧客が後を絶たない。

マーケットアナリストの豊島逸夫氏は金のセミナーを開く際、参加者に質問を紙に書いてもらう。最近は「6割がマイナンバーに関する内容だね」と明かす。金保有者にとって今、マイナンバーは相場の先行きよりも気になるテーマのようだ。 

マイナンバー制度は導入することで、「所得や行政サービスの受給状況を把握しやすくなるため、負担を不当に免れたり、給付を不正に受けたりすることを防止する」(内閣府)のが趣旨。任意ではあるが預貯金も2018年にも適用対象となる見通しになり、金業界では「網が広がってきた」と話題になった。

「金を買うときにマイナンバーを通知する必要があるのか」、「純金積立の口座も預貯金口座のようにマイナンバーにひも付けされるのか」。簡単に言えば、金の売買・保有状況を税務署が把握することになるのか、金保有者は知りたい。マイナンバー制度を管轄する内閣府に聞いたところ、「金保有については今のところ議論の俎上(そじょう)にはあがっていない」という。

ただ、売却については無縁とは言い切れない。現在、金の売却額が200万円を超えた場合、買い取った貴金属店がお金を渡したことを示す支払い調書を税務署へ提出する義務が所得税法上で定められている。

支払い調書の提出義務は地金の譲渡による所得を税務署が把握する目的で12年から導入された。公正な税負担の確保を図るという趣旨からすると確かにマイナンバーと関連づけても良さそうだ。

実際にマイナンバーの提示を顧客に求めることになるのか、貴金属店は戸惑っている。

各社が独自の判断で提示を求めるわけにもいかず、業界団体の日本金地金流通協会(東京都千代田区)は「業界として近く質問状を正式に政府に送る」としている。

かつて、個人による地金の譲渡所得の申告漏れが頻発した貴金属の業界からすれば、確実に、厳密に制度を運用したい。ただ、現状では貴金属業界を管轄する経済産業省も「今後、どうなるのか明確にはまだわからない」ともやもやした説明にとどまる。

今、店頭では100グラムの地金が人気を集めている。価格は49万円前後。1つ大きいサイズの500グラムの地金は250万円弱となり、売却すれば支払い調書の提出義務が生じる価格。「法令違反をするわけではないが、やはりできることなら売買記録や保有状況をつまびらかにしたくない」。そんな正直な気持ちが地金の販売動向からは透けて見える。 

金の保有と売却がマイナンバーの対象になる可能性はゼロではない。ただ、金は安全資産といわれ、いざというときのために備えて保有する種類の資産だ。買ったら、容易に売却など考えず、長期にわたって持ち続けることが最善の策なのかもしれない。

以上

 

2015年