2015年4月17日
今朝の日経朝刊商品面に「金生産ピークへ」というおおぶりの記事が載っていたので、以下その続編。
中国が外貨準備分散の一環として米国債売却に動き始めた。これまでは中国が国別米国債保有の一位で日本が二位であったが、最近、逆転したのだ。
問題は、中国がドルを売って、どの通貨を買うのか。
外為市場では、中国外貨準備の7割ちかくが米ドル、2割程度がユーロと推測されている。
そこで、注目されているのが、金だ。
金は、ナショナリズムのしがらみから独立した存在ゆえ「無国籍通貨」といわれる。中国にとっては円を保有するより、心理的抵抗感が薄い。
しかも、金は「誰の債務でもない」つまり発行体の信用リスクとも無縁である。発行体の利上げリスクが懸念される米国債の一部を金にシフトする通貨リスク分散には経済的合理性がある。
金市場では、「中国の公的金購入の可能性」が、ここ数年議論されてきた。
「状況証拠」が三つあるからだ。
一つは、中国の金生産量。ダントツの世界一で、2014年の金需給統計でも460トンと、二位のオーストラリア270トンに大きく差をつけている。この国内金生産量の一部が中国人民銀行に買い上げられていると推定される。460トンといえば、円換算で2兆円を超える額である。
二つ目は、IMF加盟国の公的金保有高報告ルール。各国はIMFに外貨準備として保有する金の量を報告している。中国の「自己申告」は1054トン。この20年の推移を見ると、増加基調にある。それでも、米国の8133トン、ドイツ3384トン、イタリア2451トン、フランス2435トンに比し、遥かに少ない。外貨準備における金の割合も、中国は僅か1.1%。米独伊仏は、それぞれ、73.6%、67.9%、67.0%、64.9%である。(ちなみに、米国債保有第一位日本の金保有量は765トンで世界9位。外貨準備の中の金のシェアも2.4%である。)筆者の推定だが、中国は「隠れ外準」ともいえる別勘定で金を保有している可能性がある。
三つ目は、香港経由で中国本土に輸出される金の量が、ここ数年急増していること。2012年557トン、2013年1158トン、2014年813トン。ただし、このなかには、金を利用した裁定取引に使われた量も含まれることを付記しておく。
なお、中国人民銀行が欧米金市場で直接金の買い付けに乗り出せば、たちまち金価格は急騰してしまう。そこで、代替策として実施されているのが、大手商業銀行への金業務解禁だ。国民の金現物保有を促進することで、中国国境内に金を備蓄するという発想である。中国人民銀行にとっても、国内の過剰流動性が不動産で保有されると、投機的売買でバブルの引き金になりやすいが、現物金で長期保有されれば、民族的金選好度が高い国ゆえ、過剰流動性の暴走を鎮める効果が期待できる。
金解禁により主要銀行は「貴金属部」を持ち、有力な新商品として積極的な販売促進を行っている。例えば、最大手の中国工商銀行は、金だけを扱う支店を主要都市に開設しているほど。同行の貴金属サイトは、世界でもトップクラスの規模だ。そもそも、同銀行は、17世紀に上海で「金銀貨幣両替商」として創業した歴史がある。
なお、我が国は、世界第二位の外貨準備を持ち、米国債保有は世界一になったが、公的金保有はこの45年間殆ど増やしていない。唯一の例外が1986年、天皇在位60年記念金貨大量発行の際の財務省(当時の大蔵省)による金地金大量購入であった。
しかし、これは日銀の外貨準備としての金購入ではなく、財務省の資産勘定で処理されている。
そもそも、金を買うということは、米ドルへの不信任投票ともいえるので、外交的配慮が働いているのかもしれない。
とはいえ、金廃貨を主張してきた米国がダントツの世界一の公的金を保有し、しかも外貨準備の7割以上が金。いっぽう、その米国の借金証文ともいえる国債の4割を日中が引き受けている事実は考えさせられる。
近年、中国以外の新興国であるインド、韓国、トルコ、ブラジル、タイ、カザフスタンなども相次いでIMFへの公的金保有申告量を増やしている。ドル一極支配に対するAIIB(アジアインフラ投資銀行)への参加国増加とも符合する現象であろう。
さて、4月も半ば。恒例のGFMSゴールドサーベイが発行されました。写真は、いただいた特製ネクタイ生地などで作った愛用の仕事用バッグ&小物入れと、ゴールドサーベイと、事務所のテラスで。
バッグ&小物入れのほうはデザインと軽さとサイズが気に入って、使い込んでいたら、新しいのを贈ってくれました。
ゴールドサーベイのほうは、これから読み込むか。しかし、1年経つのは早いものだ。