豊島逸夫の手帖

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米雇用統計に揺れる中国人民銀行

2015年2月9日

米雇用統計量的・質的改善により外為市場ではドル高トレンドが復活した。ドルインデックスの直近の動きは、95台のピークをつけた後、93台まで反落していた。その背景には、まだら模様の米マクロ経済指標、そして、米10年債利回り1.6%台までの下落に代表されるドル金利低下(日本国債は利回り反騰)による日米金利差縮小があった。
6日も雇用統計発表直前までは93.80をはさむ展開であった。しかし、雇用統計がドル安の潮目を瞬間的に変えた。
米利上げ「王手!」ともいえるほどのポジティブ・サプライズ。
発表直後、アルゴリズム取引により94.40前後まで瞬時にドルが急反騰。結局6日のNY市場は94.80前後の水準で引けた。
米国10年債利回りも1.8%台にまで戻した。
ドル円も119円台まで円安急進行。
主要3通貨の間では、円が最強通貨(円>ドル>ユーロ)から一気に最弱通貨(ドル>ユーロ>円)となった。
その結果、日本は「通貨安競争」議論に巻き込まれやすい市場環境の中で、9-10日に「イスタンブールで開催されるG-20財務相会議を迎える、というめぐり合わせだ。

ここで特に注目されるのが中国の動き。
8日に中国税関総署が1月の貿易統計を発表。輸出額が前年同月比3.3%減、輸入額も19.9%減。中国経済が、生産、内需ともに低調な「縮小均衡」ルートに向かっていることを、あらためて印象づけた。
既に、中国人民銀行は利下げそして銀行預金準備率引き下げの緩和政策を相次いで打ち出してきたのだが、悩ましいのは通貨政策。
輸出そして景気テコ入れのためには、通貨安競争に積極的に参戦して、人民元安へ誘導するはずだ。ところが、対米ドルの実勢人民元レートは、2月に入り、1ドル=2.60近くから6.245前後まで人民元高に振れている。
ここに中国人民銀行がかかえるジレンマが透ける。
経済減速中でも実勢人民元高を放置せざるを得ない理由があるのだ。

それは、世界のマネーの米ドル一極集中傾向により、資本流出が無視できないペースで顕在化してきたこと。
先週3日に発表された中国国際収支(2014年10-12月期)の資本勘定は、統計が発表され始めた1998年以来最悪の赤字910億ドルを記録した。
中国外貨準備も2014年には一時4兆ドルを突破したが、足元では3.8兆ドル台まで減少中だ。それでも、ダントツの世界一なのだが、問題はBIS(国際決済銀行)などによると、短期債務が1兆ドルを超え、その多くが投機的な「ホットマネー」とみられることだ。高金利の「理財商品」が、その有力な投資先となっている可能性がリスクとして指摘される。
更に、多くの中国企業が、米ドル建て債務をかかえていることも財務体質の視点では懸念材料だ。
そのような金融市場環境の中では、人民元安が資本流出を加速させてしまう。
通貨安、通貨高。どちらに誘導するか。
一般的に、中国人民銀行は2%の変動幅で人民元の管理フロート制を採っている。そのレンジの中で介入を行うが、変動幅の中心値を動かす選択肢もある。
いずれにせよ、危うい綱渡りを強いられているのが現状だ。
そもそも、中国人民銀行に中央銀行の独立性はない。党指導部の「指導」のもとに動く優秀なテクノクラート集団だ。その党は、「経済成長の質向上」を謳うが、足元も成長鈍化がもたらす失業・社会不安を最も嫌う。そこで通貨安圧力をかけてくるだろう。しかし、中央銀行の立場では、海外ホットマネー引き揚げによる金融システム不安も無視できない。
米雇用統計大幅改善による今年年央米利上げも待ったなしの状況に、もっとも気をもんでいるのは中国かもしれない。

そして、金はドル建てで1230ドル台まで急落。
雇用統計大幅改善→米利上げ6月観測強まる→ドル高→金売り。
特に、雇用統計の平均時給が0.5%上昇したこと(前月は0.2%下落した)が効いている。しかし、2014年通年で見れば、まだ、賃金が持続的に上昇する保証はない、との見方もある。
私は、2016年まで利上げ後ずれ、との見解だった。その根拠が賃金や労働参加率が上がっていないこと。しかし、今回のポジティブ・サプライズで、年内利上げの確率が高まったことは、否定できず。とはいえ、まだ、3月、4月と何が起こるか分からない。ギリシャ国債格下げなど、欧州不安材料がFRBの利上げを遅くする可能性もある。

さて、仕事でPCやタブレットを酷使しすぎたのか、タブレットのほうが遂にダウン。これには、参った!修理に出さなくてはいけない、とのことで、その間、どうしようか。1週間以上はかかりそうだから。いやはや、困ったね~~~。色々データ見るので、一台のPCだけでは無理なのだ。
ということで、当分、ブログの写真も無しだね。

2015年