豊島逸夫の手帖

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再び金利波乱、株、円、金に波及

2015年6月4日

ECB理事会後のドラギ総裁記者会見で、下記のくだりが、債券市場波乱の引き金になった。

まず、質問は以下の通り。

「金利が不安定だが、ECB理事会の中で、量的緩和が市場のボラティリティーを高めているのではないか、という不安や懸念はないのか。」

それに対するドラギ総裁の答え。

「たしかに、最近、金融市場で、巻き戻し現象があった(過去形)。その理由は3つ。まず、ユーロ圏経済成長見通しに回復の兆しが見えたこと。次に、インフレ期待感が高まったこと。そして、市場内のテクニカルな要因だ。」

「3番目の市場内要因として挙げられることは、

1)市場の買いが長期債に集中していたところに、突如、(買いから売りへの)転換があった。

2)各国政府の国債発行という供給面で、需給関係に強い圧力がかかった。

3)独短期国債のマイナス利回りが解消に向かい、それまで代替的に買われていた独長期債の需要が減少して、結果的に利回り曲線が立ってきた。

4) 市場のボラティリティーが連鎖的に高まった。

5)大手機関投資家が売買に参加を手控え、市場内の流動性が減少した。

いろいろ解釈はあるが、一つだけ教訓として言えることは、我々は、高い市場ボラティリティーの時代に慣れなければならない。低金利の状況下では、資産価格は振れやすい。このような事態に対して、ECB理事会の金融政策の対応は、市場を見通し、安定的な政策運営を維持することということで、全員一致している。」

直訳なので長くなったが、4~5月の巻き戻し相場波乱について過去形で言及した後に、「低金利の時代に市場が荒れるのはやむをえない。それに対応して金融政策を変えることもしない。」という趣旨の発言をしたわけだ。

更に、次の質問者が「市場は不安定になっても、政策対応はないのか。」とたたみかけるように質したところ、答えは「ナッシング!」「市場の不安定に対応して、金融政策を変えないのか、と問われれば、答えはノーだ。性急な政策変更は、間違えることもある。」

つまり、ECBとしてインフレ見通しを上方修正したうえで、国債が売られて金利が上振れしても、金融政策は安定的に変えず、事態を容認すると解釈した債券市場では、一斉に独長期国債が売られた。ただでさえ流動性が低くなっている市場に、追加的な売りが集中したことで、独10年債の価格は急落、利回りは急騰したわけだ。今年、一時は9年債までマイナス利回りに沈んだのだが、いまや、10年債利回りがプラス0.8%台にまで急騰した。安全資産として常に買われてきた独国債の市場では、異例の値動きだ。

この独国債波乱は直ちに大西洋を渡り、米国10年債を直撃。同利回りが2.3%台まで急騰した。

そして、日本の債券市場にも金利上昇圧力は波及して、長期国債の利回りが0.5%を超えた。

それでも、ドル金利上昇ペースのほうが速ければ、日米金利差が拡大して、外為市場では、円売り・ドル買い圧力がかかりやすい。

かくして、ドイツ発の金利波乱第二ラウンドの余波が、債券・外為市場経由で日本の株式市場にも影響を与えることになる。

世界的なマネーの流れを見れば、安定志向で買われてきた債券の値動きが不安定になれば、おカネはリスク資産としての株に流れやすい。

なお、ドラギECB総裁は、記者会見で、欧州景況感が改善しても、量的緩和を短縮するような金融政策の変更はないことを示唆した。

また、ギリシャ問題についても、色々突っ込まれていたが、一貫して明確な応答を避けた。

いよいよ6月のIMFへの返済の一回目を5日に控え、ギリシャ債務危機解決に向けて、ギリギリの交渉が舞台裏で進行中だ。

現状をテニスに例えれば、救済側とギリシャ側が、それぞれの案を練り、両者同時に違うボールを相手方コートに打ち込むような展開になっている。

このまま、相手のサーブを受ける気配もなく、5日を迎えても、ただちにデフォルトになる可能性は極めて低い。

これについては、本欄1日付け「ギリシャが今週IMF返済遅延したら、どうなる?」を参照されたい。

3日の市場も、ギリシャよりドラギ発言により強く反応している。

それにしても、5日返済期限のIMF融資は3億ユーロ。

3日のNY市場で話題になった、大手ヘッジファンドのポールソン氏のハーバード大学への寄付金が4億ドル。

ギリシャ国内のいわゆる「埋蔵金」をかき集めても、もはや、この規模の返済もままならない状況なのだ。

中長期的には、借金の部分的棒引き(ヘアカットと呼ばれる債務削減)に救済側が合意するか、ギリシャ国民が年金の更なる3割カットを受け入れるか。答えは一つしかない。

仮に、合意文書が作成されても、小文字で「但し書き」が色々つくようでは、単なる先送りにすぎない。(その可能性大なのだが。)

小康状態になっても、早晩、ユーロ離脱を問う国民投票による最終決断は不可避と見られる。

いっぽう、国際金価格は、金利上昇を受けて、金利がつかない金が売られ、1180ドル台に。

ドル建てでは、引き続き、1100ドル台後半の値動き。

円建てでは、高値圏維持。

さて、今日の写真は、我が家の梅収穫。2015年もの梅酒に。

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そして、杏も収穫。

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これはデザートに。卓上でうっかりグレープジュースを杏の上に大量にこぼしてしまったら、なんと、この相性が良くてね。杏のすっぱさと、葡萄の甘みが、いい塩梅だった。結果オーライ(笑)。最近、結果オーライが多いな~~。

それから、事務所のHPのトップページ写真など更新。季節ごとに新しい写真を入れている。例外は「写真ブログ」かな。実は更新方法がややこしくて、冬のままになっている。

www.toshimajibu.org

2015年