豊島逸夫の手帖

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投機筋主導の円安・株高の死角

2015年6月2日

「今回の円売り相場は、まだ若い。」

123円台から円ショート(売り)ポジションを積み上げているヘッジファンドの呟きだ。

今回の円安が第二段階に入ったことを体感している。

第一段階は、コモディティー・トレーディング・アドバイザー(CTA)と呼ばれる超短期マネーが、イエレン年内利上げ発言をはやして、円を売りまくった。(コモディティーという名前がつくが、株・為替・外為、なんでも値動きの良い市場で、相場のモメンタム=勢いに乗り、短期売買を仕掛けるヘッジファンドだ。)

彼らが123円台まで円売りを進行させたところで、今度は、グローバル・マクロ系のヘッジファンドが参入している。これが第二段階だ。彼らは、グローバルな視点で世界経済の動きに乗り、中期的売買を仕掛ける。現在の世界経済の最大テーマは米利上げ。そこで、「利上げトレード」の一環としてドル買い・円売りを選択している。彼らは、今年、ドル買い・ユーロ売りで既に巨額の利を得ているので、大胆にポジションをはってくる。「円安けん制の高官発言」など軽くスル―する余裕がある。「アベノミクスに、円買い介入というシナリオはあり得ない。せいぜい口先介入だけ。」と読み切っている。

「君たちが知らない、日本市場初お目見えのマネーも、日本株や円に入ってくるよ。」と意味ありげに語るので、問い詰めてみたが、どうやら産油国系の政府系ファンドを示唆しているようだ。

ジャパン・トレードに関してではなく、あくまで一般論だが、ウォール街でアブダビやナイジェリアの政府系ファンドの名前が時折話に出たことをふと思い出した。

世界的視野でおカネの流れを見れば、日本株・円に流入しているマネーなど、まだほんの一部にすぎない。「ジャパン・パッシング=素通り」の時代が長かったので、殆どのファンドは日本に関する知見が極めて薄い。純粋想起で「日本の首相は」と聞いても答えられなかったり、アベをエイブと発音したり。投機筋の世界に関する限り、オバマ・アベよりイエレン・クロダの認識が強いようにも思える。

このような投機主導相場のリスクを、市場は今年4~5月にかけて味わわされたばかりだ。ドイツ発で債券市場から始まった「巻き戻し相場」は、外為・株式市場にも連鎖的乱気流を誘発した。この事例は、積み上がる円売りポジションが臨界点に達したとき、どうなるか、を如実に示す予告編といえよう。ゼロサム・ゲームの世界では、3円下がれば、3円上がることもある。

6月相場入りとなった1日の米国市場では、ISM製造業指数の大幅上昇を受け、円が123円80銭前後から一気に124円80銭前後まで1円急落した。その間のわずか3時間ほどの円急落グラフは、円売り相場に乗り遅れまいと動いたファンドの軌跡に見える。既存の円買いポジションの損切りではなく、新規の円売りポジション醸成であることは間違いなかろう。

実は、1日には、ドル売り・円買い要因もあった。

米商務省が発表した4月の個人消費支出(PCE、季節調整済み、年率換算)が、市場予測の平均(0.2%↑)を下回り、前月比ほぼ横ばいの結果だったのだ。ただし、個人所得は0.4%増えている。

米国GDPの約7割を占める個人消費が1~3月後も、まだ回復していない。原油安という臨時ボーナスを消費せず、貯蓄していることが読み取れる。

しかも、この経済統計のもう一つの目玉である、コアPCEデフレーター(食品とエネルギーを除く)は、前年同月比で1.2%の上昇にとどまった。米連邦準備理事会(FRB)がインフレ率として消費者物価上昇率より重視している価格指標が、安定目標の2%から大きく下振れしていることが、あらためて確認された。

その結果、一部のアナリストには、再び利上げ時期後ずれ予測が出始めた。これは通常であればドル売り・円買い要因だが、市場は、ISMの数字のほうに反応した。

2つの相反するマクロ経済統計がほぼ同時に出たとき、どちらに反応するかは、その時点でのファンドのポジション次第だ。今回は、ドル買い・円売りモードだったので、PCEには反応しなかった、といえよう。

なお、日本株は、コーポレート・ガバナンス・コードなど外人投資家好みの好材料に恵まれているが、短期的には、為替の影響を受けやすい地合いだ。

ヘッジファンドには「アイ・ライク・ジャパン」という日本株支持派が増えているのだが、12日続伸となると、さすがに、用心深くなっている。特に、1日、午前中日経平均が三桁の下落を示したのに、終わってみれば僅差で連騰という結果は、力技の「官製相場」を連想させ、「気味悪い」との呟きが印象的だった。

今週は、雇用統計・ギリシャIMF返済・ADP民間雇用統計・ECB理事会などイベントが連日並ぶ。1日は、まず、その第一ラウンドであった。

NY金も15ドル程度の乱高下を演じ、一時1205ドルに迫ったが、結局1190ドル割れで引けている。ドル高の影響だ。

円建て金価格は円相場が125円に接近するなかで、ジワリ上昇傾向。

気になるのは、プラチナの下げ。

1100ドル大台ギリギリ。

ギリシャ・欧州不安を映す現象だが、やはり、どうみても、金との比価でみると、割安感強まる。

さて、金融闘論「米利上げ後の世界」の無料視聴が今日から始まります。

番組収録後にイエレン年内利上げ発言があったが、昨日は、再び、利上げ後ずれ観測浮上。まったく、経済データ次第。番組内で私が指摘したように、まだ、米経済の個人消費が不透明だね。

それにしても80分の収録が28分に編集され、発言の半分はカットされた感じ。

無料視聴は、ここをクリック↓

http://channel.nikkei.co.jp/

そして、今日の写真は、裏磐梯のゴルフ場にある湿原。菖蒲やニッコウキスゲが満開。こんなところに、ティーグラウンドがあるのも珍しい。

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それから、昨日紹介した江連裕子、社外取締役の件だけど、丁度、コーポレート・ガバナンス・コードで独立の社外取締役2名ということが示されているので、ウオール・ストリート・ジャーナルの取材が来たそうな。

関連記事を豊島逸夫事務所副代表も兼務する治部れんげが、東洋経済オンラインに書いてます。↓

http://toyokeizai.net/articles/-/71211

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