豊島逸夫の手帖

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VWショックより福山ショック?

2015年9月30日

最近、地上波の番組で90分もひな壇に座っていると、いやでも、芸能界の話題に接する。何せ、お隣に座っているのが、芸能レポーターだから。そこで、福山結婚のニュースが、日本のみならず中国の女性たちの心も揺らせていることを知った。知り合いの女性経済キャスターは、「VWショックより福山ショック」と嘆く。ふーむ、そんなものか(笑)。

とはいえ、VWショックというブラックスワン(誰も予測できなかったイベント)に見舞われた市場では、(ここからが今日の本論だよ!)円が逃避通貨として買われる。この傾向はお馴染みの現象だが、株式市場では、VW由来の想定外損失を埋め合わせるために、日本株の益出し売りに動く事例が顕在化した。

金価格が上昇トレンドにある頃には、株の損失を金の利益確定売りで補う傾向が見られた。金市場は、商品市場としては流動性も高いので、いつでも換金できるという意味で、当時、欧米市場では、金は便利なATMと言われたほどだ。

それが、いまや、日本株がATM的機能を果たす、と欧米市場では語られる。

ちなみに昨晩は、「決して、日本株を嫌い見切ったわけではない。」と米年金関係者からは、同情の言葉をかけられた。

「日本株はVWのとばっちりで売られたようなもの。」とのヘッジファンドの見方もあった。

米利上げ不透明感、中国・新興国不安により不安定な世界の株式市場で、欧州中央銀行(ECB)による追加量的緩和も期待できる欧州株が相対的に「期待の星」として浮上していた。その矢先のVWショック。ポートフォリオのリスク量を減らすためには、下がったとはいえ、アベノミクス株高による含み益を残す日本の優良株も売らざるをえないわけだ。

ただ、気になるのは、アベノミクス2.0に対して、ひややかな見方が多いこと。NYでの安倍首相講演を聞いての感想として、「ファースト・ステージも道半ばなのに、セカンド・ステージで新たな数値目標を掲げられても、俄かには、信じがたい。」という趣旨の複数の意見を聞かされた。知人の著名投資家ジム・ロジャーズ氏は、「少子高齢化で移民も拒み、公的債務は膨張中の国の株を長期には保有できない。」と切り捨てる。彼の物言いは特に刺激的だが、似たような発想は、欧米年金基金の間でも決して珍しくない。出生率にしても、介護労働にしても、すぐに結果が出る話ではないのだが、マーケットは焦れて待ってくれない。

昨晩、日本株が急落した件で、急遽、テレ朝の報ステにビデオ出演した。その時に筆者が語ったことは、「かねてから内閣府は推計としてアベノミクスがうまくゆけば、名目GDP成長率3%、実質GDP成長率2%は達成できる、と明示してきた。この経済成長が2020年まで続けば、名目GDP600兆円達成も可能との試算だ。それを、今回、アベノミクス2.0の目玉商品として、唐突に600兆円という数字をぶち上げた。結局のところ、単なる言い換えではないのか。追加緩和にしても、何を買うのか。更に、2回目3回目となると、その効果も逓減する。」と語ってきた。

ちなみに、既に日本の債券市場は流動性が枯渇して取引未成立の日もあるほど。日銀が買いまくっているので、民間の売買がクラウドアウト=押し出されている。

仮に追加緩和に踏み切っても、持続的効果は期待できまい。

逆に円安が異常に進行して、中小企業は更なる苦境に陥り、GDPの足を引っ張ることにもなりかねない。

かねてから、筆者の持論は、アベノミクス成功を期待して日本株を買い、失敗に備えて、金を買うというポートフォリオの構築だ。

ときあたかもVWショックで、世界に冠たる二大技術大国の中のドイツが揺らいでいる。相対的に日本への注目度は高まる。これ即ち、日本株への期待度の高まりでもある。

アイ・ライク・ジャパン。

日本への懐疑論ばかりではなく、応援歌も聞かれる欧米市場最前線である。

なお、VWショックの他のメーカーへの波及も懸念され、プラチナ価格は910ドル台まで続落中。

プラチナカードのステータスが、ゴールドカードより下になるという現象が定着しかねない様相だ。

代替需要として、ガソリン車に使われるパラジウムが買われている。

プラチナ価格とパラジウム価格が接近する可能性も視野に入る。

そして、今日の食い物話は、イクラ。

東京の鮨屋では、イクラには、あまり興味ないのだけど、北海道に行くと、これが同じイクラかと思えるほどに、新鮮で旨い。特に、石狩市にある老舗金大亭に行って,鮭料理コース食したときに口にした、イクラとルイベの味は忘れられない。これこそホンモノと出会った!という感激だった。また、店の雰囲気がいい。北原ミレイの演歌、石狩挽歌そのままの感じ。日本海に面し、暗い雲が立ち込める石狩川河口近くで、寒風を避けるように建つ集落の中に、時代物建築の料亭があるのだ。札幌から車で1時間ほど。途中に、佐藤水産の本社・本店があり、色々な道産海産物が販売されてた。その経験以来、東京で、イクラとルイベ、そして、タチ(鱈の白子)は食する気にならない。同じように、夏の名物、ハモも、京都でホンモノを食してしまうと、東京で出るわびしい鱧が、似て非なるものと言わざるを得ない。

ちなみに、これからは、マツタケの季節だけど、私は、嫌いではないけど、あんなにおカネ出してまで、食したいとは思わない。キノコなら、イタリアの生のフンギ・ポルチーニのほうが、ずっと好き。まぁ、これも、安くないけどね。

2015年