2015年8月25日
NY証券取引所といえば、トレーディング・フロアーの喧騒が想起される。しかし、今や、取引所の心臓部はNY郊外ニュージャージーにあるデータ・センターだ。そこのビル内には、スーパーコンピューターが整然と並び、各列には五番街などマンハッタンの通り名がついている。NY証券取引所の名残といえば、敷地内に植えられた6本のすずかけの木。1792年に24社の株式ブローカーがNY証券取引所を設立したときに、すずかけの木の下で集ったことに由来するという。
高速度取引の実態を描き、ベストセラーとなった「フラッシュ・ボーイズ」には、ワシントンから、このデータセンターまで出来る限り真っ直ぐ通信ケーブルを敷設する高速度取引業者が描かれている。途中、一か所でも迂回すると1/100秒遅くなり、不利になるのだ。
24日、NY証券取引所の寄り付きで、いきなりダウ平均が1000ドル以上急落する現象が生じた所も、実はマンハッタンではなく、ニュージャージーだった。フロアーでの売買はもはや形骸化して、ショー・タイム(見世物)などと呼ばれている。
昨日は、アジア・欧州と株急落連鎖が起き、NYのオープニングも急落確実な状況であった。そこで、1/100秒でも早く売り注文を集中的に出そうと高速度取引トレーダーたちが動いたのだ。その結果、株価が200~300ドル急落すると、自動的に多くの「損切り」注文が実行され、相場の振れを増幅させる。売りの連鎖で1000ドル以上下げたところで、一部のアルゴリズム取引のコンピューター・プログラムが、割安感から「逆張り」の買い注文を発した。そこで、相場は1000ドル近く急反発。その後も瞬間的に100ドル刻み程度の乱高下を繰り返し、結局588ドル安で引けた。
この市場騒乱について、中国・米利上げなどの後講釈で説明を試みても虚しい。
実は、NY株式寄り付き30分ほど前に、最初の異変が為替市場で生じていた。円相場が、ほぼ瞬間的に120円台から116円台まで円高に振れたのだ。
特段のニュースがあったわけでもない。しかし、116円をつければ、それが既成事実となり、そこから、新たなレンジが形成されてゆく。
このような効率性を追求した結果の市場の構造変化が、果たして、健全といえるだろうか。
NISAをキッカケに株式市場に参入してきた初心者が、いきなり経験することが、このような乱高下では、いかに長期投資といえど、恐怖心のみが助長されてしまうのではないか。
米国で高速度取引規制論が生じるのも当然と思ってしまう。
先進国株式市場も、乱高下する上海市場を、「初心者集団のカジノ」などと揶揄できなくなった。
その上海市場と東京市場の動きを、欧米市場関係者も夜なべしてフォローしている。
パニック売りなどといわれるが、人間の手を離れ、相場を主導するコンピューターに感情はない。
自然な鎮静化を待つのか、機械的な売りの連鎖を官の手で断ち切るのか。
米国のドッド・フランク法(金融改革法)は、金融機関の投機的な自己売買に規制をかけた。
グローバルな市場は国境を越え動くので、最後は国際協調による対応が必要となろう。
なお、自律反転のキッカケとしては、皮肉にも、中国発世界株安連鎖が米利上げ後ずれ要因となり、米国株が落ち着くシナリオを考えている。昨日、ロックハート・アトランタ連銀総裁は、講演で、利上げ予測を明確に変えた。これまでの「9月利上げ準備」から「年内の時点」との表現を使ったのだ。FOMC内の中間派として、同氏の影響力は強く、「9月利上げ準備」発言が、市場の9月説を勢いづけた経緯もある。更に、早速、利上げ2016年春説を唱える大手投資銀行も現れた。サマーズ元財務長官も、フィナンシャルタイムズに寄稿して、利上げがマクロ経済に悪影響を及ぼすと説き、話題になっている。
3か月でも遅らせることで、冷却期間をおけば、反転のキッカケになるのではあるまいか。
これだけボラティリティーが上がると、金を売って株の損を埋め合わせる動きが出る。これも有事の金か。
プラチナが30ドルほど大きく下げた。
円高進行で、円建て金価格も大きく下げている。仕込み時。
さて、本文でも触れたが、昨晩は、相場異変で、BSジャパンの日経プラス10に急遽呼ばれた。日経小平龍四郎編集委員兼論説委員と二人で議論。そのとき、いきなり116円になったわけ。最初の反応は、見間違えか、とキョトン(笑)。 色々やってきたけど、番組本番中に5円動くなんて初めてだよ。
なお、昨晩は超真面目な番組だったが、週末は一転、ABC朝日放送のエンタメ系90分情報番組に5回目の出演。4回目まではギリシャだったけど、今回は中国かな。これから打ち合わせ。
今年前半にテレビ番組で出した相場予測のグラフ。反省もこめて掲載。
ドル円予測グラフで「円高の落とし穴」としたことが昨晩起こった。