豊島逸夫の手帖

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三つの救済に耐えるか、ドイツ経済

2015年11月17日


パリ同時テロは、ドイツ一人勝ち構造に依存してきたEU経済に重い課題を突き付けている。

危機感強まる大量難民流入問題。泥沼化の様相を呈するVW、そして未だ視界不良のギリシャ巨額債務問題。さすがのドイツ経済も、この3つの救済を余儀なくされた場合に、果たして、その経済的負荷に耐えうるか。3つ全ての面倒を見きれないとなれば、優先順位をつけざるを得ない状況も考えられる。その場合、やり玉にあがりそうなのはギリシャだろう。ドイツ国民の感覚でも、ギリシャは、距離が離れており、未だに「本当に約束どおり借金を返済するための痛みを受け入れる気があるのか」との懐疑論も根強く残る。「ひとのことまで頭を突っ込む場合か」などの声も聞こえてくる。

いっぽう、ドイツ国内には、年間流入70万人ともいわれる難民が溢れる。ドイツ経済戦後復興の象徴ともいえるVWは、リコール・金銭的補償・集団訴訟などで万が一経営不安が生じても、「大きすぎて絶対に潰せない」。

このように比較すれば、ギリシャのユーロ離脱を防ぐための救済の切迫感は相対的にせよ薄い。ギリシャ国民に救済条件順守の誠意が見られなければ、2016年債務危機再燃も視野に入る。

ただし、今回のテロ実行犯が10月3日に難民に紛れギリシャに上陸していたことで、地政学的にバルカン半島最南部の統治が弱まるリスクもあらわになった。ギリシャ債務不安と難民危機は表裏一体なのだ。すでに、バルカン半島に難民救済センター設置に向けて動き始めていた矢先のパリテロ勃発であった。

いっぽう、パリ同時テロは、難民受け入れに関しても、重い選択を国民に強いている。数十万人の真の難民の中に一人でもテロリストがいれば、多くの人命にかかわる問題となる。受け入れ側としては、戦闘地域からの難民を見捨てることはできないが、いっぽうで、IS分子はいないのか疑心暗鬼にもなる。ジハードの思想は、国境を越えインターネット経由で侵入するので、難民だけ監視しても詮無いこと、との議論もある。とはいえ、主犯格がフランスとシリア国内のテロリスト訓練施設を往復していた可能性も指摘される。

結局、難民救済に加え、テロ対策費も膨らむことは必定。


そこで、ドイツ経済が頼るのは、ロシアと中国。

独ロ経済は緊密な関係にある。シュレーダー元首相が、ロシア天然ガス最大手ガスプロムの経営陣になった事例もある。東ドイツ出身のメルケル首相は、ロシア語でプーチンと会話できる。ウクライナ問題への対応に対しても、当初ドイツは一定の配慮も見せていた。

そして、中国。メルケル首相は、9月末に、VWトップを伴い北京詣でをしたばかり。VW最大のマーケットゆえ、「釈明訪問」にも見えた。お土産は「フランクフルトに人民元取引所創設」。習近平、英訪問で厚遇の翌週というタイミングだったので、チャイナマネー争奪戦を連想させた。

メルケル首相は、経済的政治的綱渡りを強いられている。

ギリシャ国内では悪役扱いされ、一転「難民の母」役にもなったが、今や、「難民に甘すぎる」との世論も無視できない。そこにVW不正という大きな荷物を背負う羽目になった。そしてテロ侵入の防波堤となることも期待されている。国内での政権支持率にも影が見え始めた。

2016年、ドイツリスクが顕在化の兆しが見える。


なお、今日の日経朝刊商品面に「金、有事買いで上昇」という見出しの記事が出ている。私のコメントは、有事の金買いは、持続しないという見方。事実、金価格は一時上がったが、元に戻っている。利上げの影響のほうが強い。


それから、今晩(17日)ワールド・ビジネス・サテライト(テレ東系)で、パリ同時テロについて、ビデオ出演する予定。

2015年