豊島逸夫の手帖

  1. TOP
  2. 豊島逸夫の手帖
  3. バックナンバー
  4. 日銀よりFRBに反応した円相場
Page1787

日銀よりFRBに反応した円相場

2015年2月19日

日銀金融政策決定会合後の黒田総裁記者会見からほぼ12時間後に1月FOMC議事要旨が公表された。
対米ドルの円相場は、黒田会見には殆ど反応せず119円台前半の小動き。しかし、FOMC議事要旨公表直後には50銭以上円高に振れ、118円台後半となった。特にここのところ上昇していた米10年債利回りが2.13%前後から2.06%前後にまで、ほぼ垂直に低下したことが目立つ。
欧米市場関係者のコメントも黒田会見は「ノー・サプライズ」。
対して、FOMC議事要旨に関しては、「ハト派的な印象」。
筆者も、黒田会見の生中継を最後まで見て、FOMC議事要旨も読み込み精査した。
たしかに、追加緩和について直接的言及を避けた黒田会見と、利上げ時期について具体的な議論が両論併記ながらも明記されたFOMC議事録を比較すれば、その市場へのインパクトは明らかに異なる。個人的な印象は「日銀の緩和負け」か。

今回のFOMC議事要旨のポイントをまとめてみた。

―多くの(many)参加者が、金融正常化を急ぐリスクのほうを注視する見解であった。
―数名(some)は、金融正常化が遅きに失するリスクを重く見た。
―FOMC声明文に明記された「国際情勢」も考慮との点に関しては、中国経済減速、世界的ディスインフレ圧力、中東・ウクライナ情勢緊迫、そしてギリシャ金融不安と主要4要因が全て指摘された。
―原油急落は米国マクロ経済にとってプラス要因が優るとの点にはほぼ異論なし。しかし、ドル高の米国輸出産業への制約要因には懸念あり。更に、2~3名(a few)の参加者は現水準以上のドル高進行リスクを指摘。
―原油急落がインフレ期待感を弱めるとの議論に関しては、「一時的」と予測。しかし、数名(several)は、コアインフレ率低下を懸念。更に、2~3名(a few)は、名目賃金伸び悩みにより、目標インフレ率2%達成まで、より長い時間がかかるとの見解。

以上を総合的に判断すれば、manyやseveralの単語の使い方から、FOMCメンバーの多数派はハト派的見解であることが確認できる。
利上げの時期こそ具体的な明示はなかったが、印象度としては、この議論内容から6月利上げの確率は低くなったことが推定される。
いまやウォール街のはやり言葉になった「忍耐強く」との単語を声明文から外すことが、「次回、または次々回のFOMCで利上げを示唆。」と解釈されるので、このpatientの一語の扱いに関する議論の有無も注目されたが、特記なし。ここには、その単語に市場が過度に反応する事態を避け、金融政策の自由度を確保したいとのイエレン議長の思いがにじむ。
読めば読むほど迷う内容だが、少なくとも、黒田会見より具体性があることで、欧米市場は日銀への遠慮もなく、FRBのほうに反応したといえよう。

金価格もFOMC議事要旨公表直前には1200ドル割れを演じていたのだが、ハト派的議事要旨を見て、1210ドル前後まで戻した。金利を生まない金は、利上げ議論に相変わらず敏感に反応する。
とりあえず、イエレンさんのおかげで、1200ドル割れは回避できた。しかし、いずれ、利上げ議論は再燃必至。その時点では、ドル建て金価格1100ドル台。いっぽう、ドル高により円安は125円を超える水準にまで進行。
円建て金価格は底堅い。

さて、昨日は、アベノミクスの経済恩恵効果の浸透について考えさせられる一日でした。
昼に東京商工会議所江戸川支部で講演したのですが、江戸川区といえば、中小企業の街ですよね。
アベノミクスの恩恵は感じられず、円安のデメリットは輸入部品価格上昇などで強く感じられる土地柄。
ですから、「どうなる、円安、原油安、中国」と題する講演にきわめて熱心に聞いてくれました。
九州でのFP協会研修会講演といい、江戸川講演といい、地方や中小企業の実態を生で聞くにつけ、「円安・原油安」が重く感じられます。
黒田日銀もアベノミクスも本当に綱渡りなのだ、ということを、いまさらですが、つくづく体感しました。
セミナー風景写真を添付します。

2057a.jpg2057b.jpg来月は、同じノリで、3月12日に東京商工会議所の台東支部で講演。
一般参加可とのことです。↓

http://event.tokyo-cci.or.jp/event_detail-59472.html

それから、昨年もやりましたが、独立系の保険の専門家で保険の実態を描いた本がベストセラーになった後田亨さんの「横浜サカエ塾2周年記念セミナー」3月28日で講演します。↓

http://www.yokohama-baton.com/schedule.html

あえて組織に属さず、保険の本当の話を説き続けている後田さんの意気に感じて、昨年も参加しました。若い人が、独立で保険コンサルやってゆくのは大変です。でも、本音が語れる人には頑張ってほしい。だから、手弁当で応援しにゆくのです。
彼の日経電子版の「保険会社が言わないホントの保険の話」という人気コラムは一読を薦めます。↓

http://www.nikkei.com/money/household/hokenhonto.aspx

2015年