豊島逸夫の手帖

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売りクライマックスは終わったか

2015年8月27日

世界同時株安が、米利上げ開始先送り観測を誘発して、米国株式市場が反転。中国追加緩和政策をNY市場が追認する印象を与えて、市場波乱は当面終息に向かい始めた。注目の上海市場も連日の売り攻勢が水入り状態だ。

やはり、今週が当面の売りクライマックスだったようだ。

とはいえ、市場内部を点検すれば、リスクを取る投資家が撤退するなかで、高速度取引が市場を席巻して、異常な乱高下を引き起こしてきた。この構造は今も変わらない。

中国・米利上げ・原油安、そしていつ再燃してもおかしくないギリシャ債務不安の4要因からなる9月リスクも変わっていない。

結局、今回は、米利上げをキッカケに起こる市場騒乱劇の予告編を見せつけられたのだと思う。かりに利上げ開始を12月とすれば、執行猶予3か月とでもいえようか。売りクライマックスの第二ラウンドの可能性は残る。

結局、投資家が少しでも安心して前向きにリスクをとれる市場環境が醸成されなければ、市場の流動性は戻らない。

これまでは、中央銀行の緩和政策が投資家に安心感を与えてきた。

日米欧中ともに政策的にばらまかれた過剰流動性が資産価値を高めてきた。

しかし、その安心感が永遠に続くはずもなく、今回、米国引き締めへの転換が視野に入ったところで、市場にくすぶっていたもやもや感が臨界点に達したのだと思う。

ゼロ金利に慣れきった投資家の心は揺らぎ、中国経済減速をキッカケに、不安心理が増幅していった。

そこで、投資家のリスクに対する抵抗感を和らげることが出来るのは、やはり中央銀行の存在だ。

おりから、ジャクソンホールで恒例の中央銀行シンポジウムが開催される。主役となるべきイエレン議長の欠席は残念なことだが、各国の中央銀行が断固たる態度で金融システム安定に向け協調体制をアピールすることが望まれる。

投資家たちからは、言葉ではなく行動で決意を示せ、とのコールが起きるだろう。

FRBが利上げに慎重な態度を明確にする。日欧当局は「必要となればなんでもやる。」ことを再度強調する。中国はまだゼロ金利ではない分、政策の懐は深い。これらのメッセージを同時に協調して発すれば、インパクトはあると思う。

中央銀行家としては、非伝統的金融政策という有事対応から一刻も早く脱却したい思いは強いだろう。

追加緩和を重ねることで、バブルの種をまくリスクは否定できない。

しかし、今回の世界株安連鎖再燃を防ぐためには、次善の策もやむを得ないのではないか。

特に、米国に関しては、利上げしたものの、世界同時株安が再燃して、すぐに利下げを迫られるような事態にでもなれば、それこそ、FRBへの信認が失墜してしまう。

現状は、とりあえず出血の再発を止める止血剤の投薬が必要な事態である。

同時に、長期的治療方針を、ジャクソンホールで徹底的に議論してほしい。当然、G7での協調体制も不可欠である。

金価格は市場の緊張感が緩み、反落。

ここのところ、株との逆相関が強い。

分散のセオリー通りの展開。

さて、昨晩は、急遽、テレビ朝日の報道ステーションに出演。テーマは、もちろん世界同時株安。

反響が大きく、あらためて、CSやBSと違って、地上波のリーチが広いことを実感。マーケット関連の仕事ゆえ、相場が動くと、急に出演依頼が来ることが多い。なお、土曜日のABC朝日放送は、中国とギリシャについて語ることに。朝9時半から90分の情報番組。これで6月から5回目だか6回目だかの生出演。例によって、You Tubeでも流れるよ。個人的には、関西の仕事は、大阪・京都で旨いもん食べられるから歓迎(笑)。相変わらずの食いしん坊。

それから連日の英文原稿はこちら。

中央銀行金融政策について

http://asia.nikkei.com/Viewpoints/Perspectives/Central-bankers-are-running-out-of-tools


高速度取引の弊害について

http://asia.nikkei.com/Viewpoints/Perspectives/High-frequency-trading-causing-extreme-market-volatility-is-this-healthy


最近は、ベトナム・インドネシア・マレーシアなどに読者層が広がり、先週は週間アクセスランキングの3位にはいる原稿もあった。書き甲斐を感じてる。

2015年