豊島逸夫の手帖

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投資に学歴は関係ない

2015年4月1日

スイス銀行チューリッヒのトレーディングルームで働いたとき、「外為貴金属部」所属ディーラーの半分は高卒だった。

アルゴリズム取引、高頻度取引が市場を席巻する今も、その傾向は変わらない。コンピューターゲームで育ち、キーボードを叩くスピードが速い若者が現場では貴重な人材となったりする。

その後のキャリアの中で、ウォートン・ビジネス・スクールの短期集中講座に派遣され、近代ポートフォリオ理論(MPT)と計量経済学を学んだ。意気揚々と現場に戻り、理論に基づき相場を張ったのだが、結果は惨憺たるものだった。経済理論は一定の前提に基づくのだが、その前提が、刻々と変わり、更に、想定外のイベントが頻発するので、常に運用の一部変更を強いられる。

また、知れば知るほど、あれこれ考えすぎて、売買決断ができなくなってしまう。

IQのレベルとか投資知識の量と投資の成果に強い相関はない。

知識が豊富な大学教授が、実は悪徳商法に最もひかっかりやすい、という話を刑事さんたちから聞いたことがある。

教育水準が高い人材に共通していえることは、後講釈だけはうまい、ということだ。過去のデータをエクセルに並べ、相関関係らしき傾向を見つけ出し説明する技はたけている。しかし、それは、あくまで過去の話。市況の法則が通用しない展開が頻発する相場では、その相関がいつまで続くか、全く保証はない。

こういうとみもふたもないのだが、最後の売買判断には、今でも「勘働き」による瞬間的決断によるところが大きい。アナリストが提示するシナリオAとシナリオBのどちらを取るか。

よくアナリストは二つの手を持つが、ディーラーは一つの手しか持たないといわれる。アナリストは、Aの確率60%、Bの確率は40%というが、ディーラーはAかBか、瞬時に選択して、売りか買いの一つの決断をせねばならぬ。個人投資家とて同じことだ。

そして、「運」も実践では無視できない。筆者の同僚にも、マクロとミクロのバランス感覚が良いディーラーなのに、なぜか、「想定外」の事態で大きな損失を被りがちな人たちがいた。逆に、もうだめか、と思われたときに、サプライズイベントという神風が吹き、結果はプラスに転じるという運を持っている人たちもいた。

更に、投資には強いストレスがかかりがちゆえ、生まれつき内臓、特に肝臓が大きい人ほど、「胆力」が強く、ストレス吸収能力も高い。筆者がアシスタント・ディーラーを採用するとき、特に、肝臓のレントゲン写真提出をお願いしたこともある。

民族的にも、欧米人に比し、日本人の肝臓は小さいから、始動時点からハンディキャップがあるのだ。

なお、それでも、最低限の金融リタラシーは必須だ。

たとえば、「債券の価格が上がると、利回りは下がる」という債券のイロハ。

これをセミナーでやさしく初心者に説明しようとすると、なかなか分かってもらえない。

そもそも国債を売買するって、どういうこと?という素朴な疑問から説かねばならない。

でも、この部分が理解できていないと、ギリシャ問題でなぜ国債利回りが重視されるのか、分からないままになってしまう。

今は、街角でもフレッシュマンたちの姿が目立ち、初めておカネの管理やマーケットの仕組みを考え始める人たちが増える季節だ。

最近は「やさしく説明する投資」の記事が増えているので、あまり欲張らず、そして焦らず、コツコツ基礎知識を蓄えてゆくことをまずは強く勧めておきたい。同時に、居酒屋や女子会一回に使う程度の金額から金や投信を積み立ててみたりして、実践してみることも大事だ。投資で損するときの気持ちも経験することが、反省して更に勉強するキッカケにもなる。徐々にリスク耐性を鍛えてゆく努力も怠らぬようにしたい。

2015年