豊島逸夫の手帖

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私の失敗談

2018年7月10日

偉そうなことを言っている筆者も苦い失敗談には事欠かない。チューリッヒでゴールドディーラーをやっていた時、こういう経験があった。

連日相場を張るのだが、スイス人の同僚に比べると我ながら実に女々しい。勝負に負けた日は帰り道に「ああ、なんであんな高いところで買ってしまったのか。」とか「あそこでド安値で売ってしまうなんて。」とかとにかく悔いてめげるのだ。一方、スイス人の同僚はと言えば、負けた日もテニスで汗を流しビールをひっかけて気分転換出来ている。こちらにも意地があるので(笑)決して表に出さなかったが、そういうスイス人が羨ましかった。そのような悶々とした日々が続き、ある時フランクフルトで日本人ディーラーたちとの親睦会があった。そこで私がこの話を切り出したら皆「実は私も。」と次々に「カミング・アウト」を始めたのだ。やはり日本人はそもそも相場の短期決戦には向いていないのだろうと痛感したものだ。その代わり日本人は長期のスタンスでじっくり考え、取り組むことは得意だ。長期投資には向いている。逆にスイス人は苦手な部分である。こんなジョークがある。スイス人がタクシーでアルプスに登って下り始めた時ブレーキが故障。車のコントロールが効かずパニックになったスイス人の客が後部座席でなんと叫んだか。「メーターを止めろ!」

このようなエピソードもある。スイス銀行のロンドン現地法人、と言っても行員3000人の大所帯であったが、そこのトップ1、2、3は代々オランダ人だった。よく「オランダ・スイス銀行」などと揶揄されたものだ。ディーラーとしてロンドン市場よりパリ市場の方が割安とか、目先の動きには実に敏いのだが、組織のマネジメントとなると苦手なのだ。そこはさすが全世界を相手に植民地を支配した歴史ある国ゆえオランダ人が優る。

何事も得手不得手はある。日本人は長期投資を貫けば良い。何も短期投機の分野で外国人に張り合うこともあるまい。

こう言うと読者諸兄からは即反論が聞こえてきそうだ。

私は違う。百戦錬磨で鍛えられ、そんな臆病者ではない!!

一般論ゆえ勿論日本人にも短期決戦大歓迎の豪傑も少なくない。

事実スイス銀行にも伝説の日本人ディーラー氏がいた。ポーカーやらせればプロ級。とにかく賭け事は強かった。天才肌だった。

ただ総じて日本人には秀才肌が多いということだろう。

2018年