豊島逸夫の手帖

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「トランプ・チャイルド」扱いされたパウエル議長

2018年7月20日

パウエルFRB議長議会公聴会証言の翌日にトランプ大統領のFRB介入発言が飛び出した。

利上げは好ましくないという表現より、個人的な感情で「面白くないnot thrilled (スリルを感じない)」、「ハッピーではないnot happy」と語っている。金融政策の独立性を多少なりとも自覚していれば、そのような表現を使うはずがない。

トランプ大統領はパウエルFRB議長を「トランプ・チャイルド」と見做しているのか。「私はFRBにとても良い人物を送り込んだ。」との発言は利上げ関連発言より由々しいのではないか。「私は彼ら(FRB)が最善と考えるやり方をやらせている。」ここで「let them do (やりたいようにさせる)」との言い回しも気になる。一般企業での子飼い社員に対する社長のコメントを彷彿させる。

総じて、いつものトランプ流の口語的言い回しで中央銀行の金融政策をけなしている。「これは私が一市民であれば言ったであろうことを語っているのだ。」と述べた後に「大統領として言うべきことでないかもしれない。(maybe=かもしれない)」と語っている。断定的にFRBの政治的独立性を守るとは述べていない。明らかに金融政策に関する知識が欠如している。それを自覚せず言いたい放題との印象を受ける。

昨日の本欄でも「これがパウエル流、新FRB議長の正体」の最後に「そもそもトランプ大統領に任命され、記者会見では「ジェイ」とファーストネームで呼ばれて肩を叩かれ、市場では「FRBの政治的独立性」が危惧されている。「これがパウエル流」と印象付けることも広義のフォワード・ガイダンス(将来の政策明示)と言えるかもしれない。」と結んだばかりだ。

パウエル氏がまともに本件に関して発言するとも思えない。大人の対応を貫くだろうが、イエレン前議長と異なる物言いで独自性を印象付けることが、せめてものパウエル氏の反論になるのだろうか。

次回のパウエル氏記者会見では、この問題に質問が集中しそうだ。

なお市場の反応はNY市場でドル安円高に振れたが、トランプ大統領はこれまでも低金利選好を示唆する発言していたので、大きなサプライズはない。ドル高は米国株価にはマイナス材料となる事例もあるので、敢えて言いたいように言わせておくという思惑も透ける。

とは言え、今後トランプ大統領がこの発言に関する質問を受けた時に、その日のご機嫌が悪く過激に語ると、外為市場でのドル売り・円買いを誘発する可能性が残る。

基本的には市場のセンチメントに悪影響を与えるような材料が増えたようだ。日米通商交渉の過程でもこれまで以上に円高懸念が意識されよう。

2018年