豊島逸夫の手帖

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トランプ大統領、対ロ劣勢、対中優勢

2018年7月17日

「米ロ関係は史上最悪だったが4時間前から変わった。」

トランプ大統領はプーチン大統領との対談後、記者会見でこう語った。

そして締めの発言は米国内のロシア疑惑捜査を「魔女狩り」とのお決まりの批判。

ロシアの大統領選挙介入疑惑に関しては「プーチン大統領は強く否定した。」と援軍を得たかのような発言。

ヘルシンキからのテレビ中継画面に見入っていたNY証券取引所フロアーのトレーダーたちも、思わず「オー、ノー」とため息まじりの反応を見せていた。

あたかも自国の諜報機関よりロシア側の肩を持つかの如き発言に共和党内からも批判が出ている。

結局、米国内の分断を強める結果となった。

W杯から直行してトランプ大統領を30分以上待たせたプーチン大統領は、この成り行きを「オウンゴールで得点」とほくそ笑んだかもしれない。

得意の柔道に例えれば「一本」とはいかないが「有効」のポイントを稼ぎ、米ロトップの直接対決は「判定勝ち」に持ち込んだというところか。

ロシア軍情報当局者12名を起訴したばかりのモラー特別検察官をロシアに招待して、米ロ共同で共謀の事実関係を調査する案までオファーする余裕さえ見せている。「とても良い提案だ。」とトランプ大統領も応じた。

一方、米中貿易戦争では、トランプ側が優勢に立つとの判断が市場では優勢だ。中国経済成長率6.7%への減速の報道も貿易戦争で中国側に不利な材料とされる。雇用統計、物価指数などマクロ経済指標で好調が続き経済成長率改善が見込まれる米国経済との対比が鮮明だ。

貿易戦争は消耗戦ゆえ体力温存が重要だ。貿易戦争に勝者はいないが、それは長期的な話。足元で株やドルを買うか売るかの判断を迫られる市場は、1ラウンドごとの展開でゲームの流れをつかみ先取して動く。後半のラウンドで趨勢が変われば、その時点で売買ポジションをひっくり返せばよい。

ここでの趨勢というのは、具体的には貿易戦争による世界経済減速の米利上げ観測への影響だ。

パウエルFRB議長もその成り行きを注視していると既に発言している。今日からのFRB議長議会公聴会でも当然質問が出よう。昨日はカシュカリ・ミネアポリス連銀総裁が「このまま利上げを続けるとイールドカーブ逆転のリスクがある。」と警告を発した。貿易戦争がエスカレートすれば、安全性を求めるマネーが米10年債に流入して利回りを引き下げ、長短金利差縮小が加速する可能性もある。

市場が政治要因の影響度を図る物差しは結局金利水準に落ち着くようだ。

2018年