豊島逸夫の手帖

2018年1月26日

日本時間午前３時頃、米国ＣＮＢＣが突然トランプ大統領とのインタビューを流し始めた。聞き手は同局朝番組の名物アンカー氏。それゆえ全編は翌日朝放映されるが、最も話題性が高い二つのパートが公開された。

まず、ＴＰＰ再検討のパート。
トランプ大統領が「誰かが聞いたので答えるのだが、これはビッグニュースだ。私はＴＰＰをやる（Ｉ　ｗｉｌｌ　ｄｏ　ｔｐｐ）。　但し現状では酷い取引（ｄｅａｌ）だ。それが各段に良くなれば再検討するということだ。」
驚いたアンカー氏が「ＴＰＰにドアを開くということか。」と確かめると「驚いたでしょう。今より格段に良く構築されれば、ＴＰＰにオープンだ。」と答えた。
条件付きでＴＰＰ交渉を再検討するとのコメントを３回繰り返している。
勢い余って口走ったような発言ではない。
トランプ大統領の本気度は感じられた。
但し冒頭では「二国間協定ならすぐ止められるが多国間協定ではそうはいかない。だから私は二国間協定の方を好む。」とも釘を刺している。
「格段に良い取引」が何を意味するのかは不明だ。

次に、ドル高志向発言。
ムニューチン発言について聞かれ「あれは本筋から外れて報道されている。私はこの件（ドル相場）について話したくないのだが、それにこんな事は誰も話すべきではないのだが、これは重要な事だから私の考えを話す。ドルの価値は国の経済力による。その米国経済は非常に力強い。絶好調だ。それゆえドルはどんどん強くなるだろう。最終的に私は強いドルを好む。」と答えた。

このコメントで市場は騒然となった。
ドルインデックスは８８台まで沈んでいたが８９台に急回復。それでも９０の大台は回復できない。
政権幹部と大統領の発言がこれほどまで食い違うと市場も疑心暗鬼になる。
結局、ドル安になれば米国の多国籍企業は国際競争力向上というメリットを享受する傾向があるが、中小企業にはコスト高、消費者には輸入製品価格上昇のデメリットがある。更にドル安が続けば、ドルの信認が薄れ米国へのマネー流入が減少することになる。それは米国債を中国・日本など外国に買ってもらっている立場の米国としては歓迎できない状況だ。従って、マーケット内でもドル高かドル安か、侃侃諤諤の議論が飛び交っている。ドル安政策の事例として、プラザ合意後の円高誘導のケースなどが引き合いに出される。今回の件については、結局トランプ大統領がムニューチン財務長官の「勇み足」から生じた市場の混乱の火消しに動いた印象が強い。

トランプ大統領の本音としては、ドル安で米国の製造業の雇用が増え結果的に輸出が増えてドル高となれば、中間選挙対策としても望ましい展開なのだろうが、そう簡単には問屋が卸さないのが市場だ。
政権の方向性がぶれると、不透明感からドル相場のボラティリティーが高まることだけは覚悟せねばなるまい。