2018年9月10日
好調な米雇用統計が「トランプ円高」に待ったをかけた。
トランプ大統領の対日通商警告発言により、外為市場では1ドル=111.40円台から瞬間的には110.40円近くまで円高が急進行していた。しかし雇用統計発表後一時は111.20円近傍まで円は急落した。その後雇用統計由来のドル高・円安要因と通商摩擦懸念の円高要因が拮抗する展開となっている。雇用統計の影響は今後ドル高要因としてボディーブローの如く効くだろう。
対してトランプ大統領の対日発言はワンツーパンチの如く市場に衝撃を与えるが材料としての陳腐化も早い。トランプ発言がぶれるので、その度に市場は短期的に乱高下する。それゆえ投機筋が好む材料だからだ。
雇用統計に関しては、今回市場では平均時給にサプライズ感があった。前年比2.9%の上昇は2009年6月以来の上昇幅だ。トレンドを見ても、15年から18年まで上下変動を繰り返しつつ水準を切り上げる展開になっている。
これまでインフレ率低迷の「主犯格」とされてきた賃金伸び悩み現象が米国では徐々に解消されつつある。上がらない賃金と原油価格上昇が消費マインドを冷やす負の連鎖への歯止めも見込まれよう。
米利上げ観測も9月は動かぬとして、12月利上げ確率が75%にまで上がってきた(シカゴ・マーカンタイル取引所=CMEの利上げ確率予測)。債券市場では、市場のインフレ期待を映す10年債利回りに上昇圧力が再度強まりつつある。米連邦準備制度理事会(FRB)政策金利との相関が強い2年債利回りも上がってきている。
総じて賃金上昇が構造要因として市場に影響を与えている。さらに先週発表された8月のISM製造業景況感指数も61.3と、2004年5月以来の高さをつけた。雇用統計とISM指数が共振して米国経済絶好調を印象付けている。
とは言え、ドル高は新興国が抱える巨額のドル建て債務を一層重くする。この問題の視点で見れば米国へのマネー集中が孕むリスクから目が離せない。好調雇用統計は結果的に新興国経済を圧迫することにもなるのだ。
トランプ大統領は中間選挙を視野に、新興国が奪った雇用の米国回帰を謳うだろう。
政治経済両面で雇用統計の底力が確認され利用されている。
雇用統計が良いと利上げ観測が強まりドル高に振れるので、NY金先物価格は下がる。