豊島逸夫の手帖

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「イタリア政治危機」?

2018年5月29日


イタリアが揺れています。マーケットでは「イタリア不安」でイタリア国債が売られ、同国債利回りが急上昇しています。なぜ?欧州危機の再来なの?


事の発端はイタリアで極右政党「同盟」と反EU・ポピュリズム政党「五つ星運動」が勢力を急拡大し、総選挙で遂に過半数の支持を得て連立政権を組むことになったという展開。
ユーロ圏内で独仏に次ぐ経済規模を持つイタリアの政権が反EUを唱えるとなると、これはEU分裂のキッカケになりかねません。


ここでイタリア大統領が思い切った行動に出ました。自ら、独自に新首相(元IMF高官、政治経験ゼロ)を任命して、暫定内閣を組閣するという動きです。イタリアの大統領はかなりの権限を持つのです。現大統領マッタレッラ氏はイタリア国内の「体制側」を代表する立場で、反EU政権誕生に危機感を持ったのです。
もし新首相が議会で否認されれば今年秋にも再選挙となります。今の勢いでは五つ星と同盟が再勝利となりそうです。


五つ星と同盟の連立政権は、低所得者に一人月額780ユーロ(約10万円)をばら撒く放漫財政を掲げているので、イタリアの累積債務が更に膨らむことが市場では懸念されます。そもそもイタリア国債はECB量的緩和政策による国債購入プログラムで買い支えられてきました。ECBのイタリア国債保有額は既に40兆円相当規模にもなります。その結果、イタリア国債は利回りが低く抑えられ10年債が1%台で推移していました。しかし足元では2.7%まで急上昇。と言ってもまだ、欧州債務危機当時に比べれば極めて低い水準ですが。果たして市場が高を括って楽観的すぎるのか。昨年のフランス大統領選挙の時も、欧州危機が囃されたものの結局大したことはなかったという記憶が残っています。されど、イタリアは too big to fail 大きすぎて潰せないけれど、too big to bail 大きすぎて救済できないというところが悩ましい。トランプ大統領の毒気に当てられた市場は、イタリア危機など大したことはないとリスクに鈍感になっているのかもしれません。要経過観察としましょう。

2018年