豊島逸夫の手帖

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早朝のトランプ・サプライズ再来

2018年7月11日

日本時間朝5時のNY大引け時点では市場は楽観ムードに包まれていた。米中貿易戦争の材料は出尽くし。雇用統計も物価安定、雇用好調の適温経済を示す。これからNY市場は決算シーズンに入るが企業業績は好調。株価は連騰。

ところが朝6時前後にブルームバーグが「トランプ大統領、対中国追加関税発表へ」の第一報を流したところで「まじかよ」、「まさか」と一瞬耳を疑った。具体的内容は「追加関税規模2000億ドル、約22兆円」。第一弾の500億ドル規模とは桁違い。市場は楽観視していたので動揺。しかし、この日本時間朝5時、6時は市場の流動性が最も薄い時間帯。動くにも動けない。24時間電子取引はオープンしていても値は気配値程度。逆突かれたトレーダーは蛇の生殺し状態。その時OA中だった日本の経済番組は「市場は貿易戦争リスクを克服し晴れ模様」などと能天気。

瞬間的にマーケットの景色が変わってしまって、筆者もかなり動揺した。

その後アジア市場がオープンして日経平均も400円近い急落。円は買われ、金は売られ。この「金は売られ」がよく分からないのだけど、市場が動揺するととにかくリスク減らしで金も巻き込まれるのだ。金は売って現金化しやすい対象なので市場の「ATM」と言われるほど。

とにかくトランプ大統領もいい加減にして欲しいけど、貿易戦争リスクは深刻度を増すばかり。究極スタグフレーションのリスク。関税上乗せで物価は上がるが経済成長は減速すると言うルーズ・ルーズのシナリオ。よく貿易戦争に勝者なしと言われるけど相場の世界でも全員負けとなる。マクロの視点では拡大均衡から縮小均衡へ大転換。

今回の対中国、新たな追加関税2000億ドルについては、さすがに身内の共和党議員からもブーメランの如く負の効果が米国民に跳ね返ると批判の声があがる。中国の米国からの総輸入額を上回る規模ゆえ、ここから中国の報復は追加関税ではなく企業への嫌がらせ、米国製品不買運動など「量」から「質」へ変わってゆく。かなりたちが悪い報復措置となりそう。

一方、この機会とばかりに欧州と中国が接近中。特に中国市場が最大顧客であるドイツ首相メルケルさんの北京詣が増えそう。中国も李首相が訪欧中。勿論、欧州・NATOにとって中国の軍事リスクは重要だから、対米全面協力とはならないが中国はほくそ笑んでいることだろう。

2018年