豊島逸夫の手帖

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バーナンキショックの再来懸念、金上抜け

2018年12月21日

異常なNY株安に歯止めがかからない。20日もダウ平均は一時670ドルまで急落した後464ドル安で引けた。そしてNY金は1260ドル台を突破してレンジを上抜けた。

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「パウエルショック」の兆しがちらつく。

2013年のバーナンキショックは、当時のバーナンキFRB議長が量的緩和(QE)縮小を示唆したことがキッカケだった。

対して、今回はパウエル議長が量的引き締め(QT)継続、つまりFRB資産圧縮プログラムを粛々と実施を示唆したことが市場の不安を煽る結果となっている。

QEの時と同様にQTについても市場にとっては初の体験。QE依存症になったマーケットにとっては、病状回復も定まらぬのに点滴を外される如き不安感がある。既に市場は異音を発している。株価大異変という症候が顕著だ。それなのにFOMC後の記者会見でドクター・パウエルは「ボラティリティーの高まりは大したことない。」と切り捨てた。それから一日経過して市場がFOMCの経過を反芻・消化してみると、これが不用意発言との声も上がる。パウエル議長が市場との対話を間違えたとの指摘も聞かれる。

FOMC後に10年債と2年債の利回り格差は0.1%を割り込む局面もあり、逆イールドという合併症の病状も進行している。

クレジットリスクが顕在化してきたことも信用不安懸念を高める。

連日の株急落で投資家の追加証拠金不足が目立ち始めた。ハイイールド債市場ではエネルギー関連投資が多く、原油急落が破綻を招くリスクと意識される。既に金融正常化の過程でマネー潤沢の時代は終わった。過剰流動性の典型的受け皿であったハイイールド債市場にも宴の後の「二日酔い」気分が漂う。

一方、株空売りを仕掛けたヘッジファンドでは、年末に思わぬ「サンタクロースからのプレゼント」を得てほくそ笑む事例も少なくない。

NY株が「弱気相場入り」を宣告されたので、更に空売りが勢いを得た。

マクロ経済指標の良い材料は「データ次第」のFRBが利上げ回数を増やすとの連想で、悪い材料に仕立て上げられる。悪い材料が出れば市況の法則どおりに悪材料視される。

20日にはムニューチン財務長官が、FOMC後の株急落を「市場の過剰反応。」とパウエル氏を弁護した。「今の株価はとても割安。」とお買い得の如き発言をしても市場は冷ややかに見守るだけだ。逆に「パウエル氏の発言に市場は失望したが、FOMC内には利上げ慎重派もいる。」との「余計な一言」が、FRB内部の亀裂を示唆したかのような印象を与える結果になった。物言えば唇寒い季節。政権幹部が語れば語るほど「不用意発言」の可能性も増える。

2019年利上げ2回とパウエル氏が言い切ったことについても「あれはデータ次第の予測であり約束ではない。」と蒸し返され、市場の視界不良は強まる。

また、政府閉鎖観測も復活。更に中国のハッカー攻撃に同盟国で対応の件も株売り材料となっている。しかし、これらも売りの口実に利用された感が強い。

なお、VIXが危険水域とされる30の大台に接近していることは要経過観察だ。VIX症候群は、ひとたび発作を起こすと落ち着くまでに数週間は長引く傾向がある。

日本株への伝染により、NY市場では日経平均2万円割れの可能性も話題になった。円が安全通貨として復活し111円攻防を演じたことも、金の安全資産復活と並び注目されている。FOMC直後に日銀金融決定会合という巡り合わせは、日米金融政策方向性の違いを強く市場に印象付けた。黒田総裁が慎重に語れば語るほど、疑心暗鬼の市場では円高シナリオが意識されている。

2019年の金は上昇の予感が強まる。

2018年